夏コミは8月12日(月曜)、東ラ07bにて、サークル「青橋商店」として参加します。
新刊は1冊。
青橋由高短編集16 メイド妻やります!(18禁)
青橋由高(著)
青橋商店
会場頒布価格800円
メロンブックス
とらのあな
美少女文庫の「メイドやります! 年上お姉さんとツンツン幼なじみ」の書き下ろし後日談となります。
ファンティアの有料会員向けコンテンツとして公開したものと同一です。
イラストはなし。160ページ。エロあり。
基本的には「メイドやります!」の楓さんと穂乃花メインです。楓さんのほうが出番多いです。
時系列的にはマドンナメイトの「メイド双子姉妹 巨乳美少女たちのシンクロ絶頂」の裏で進行している話ですね。
「双子姉妹」のほうは未読でも大丈夫ですけど、さすがに「メイドやります!」は読んでないとなにがなんだかわからないかと。完全にマニア向け。
以下、冒頭部分です。
第一章
「私が留守だからって、乱れた生活したら許さないからね、開!」
「うん、わかってるよ。穂乃花も、気をつけて楽しんできてね、家族旅行」
「ええ、おみやげ、買ってきてあげる。……私がいないからって、開に淫らな生活させないでくださいよ、楓さん!」
春の大型連休を利用して家族で旅行するという幼なじみ兼恋人兼メイドの少女は、開のすぐ近く、斜め後ろに立つもう一人に鋭い目を向ける。このポジションにも深い意味があるらしく、
『通常のメイドはご主人様の斜め後ろで、控え目で侍るのが基本ポジションとなります。ですが、すでに開様の実質的なメイド妻にしていただいたわたくしは、より近距離に控えさせてもらってます』
以前、どこか得意げに穂乃花に語っていたシーンを開は目撃していた。
「うふふ、もちろんですわ、穂乃花さん。この限定解除メイドにして筆頭メイド妻であるわたくしにすべてお任せくださいませ♥」
「その満面の笑みが逆に疑念しか招かないんだけどっ。明らかに、邪魔者のいないうちに開との二人きりを楽しもうって魂胆しか感じられないんだけどっ」
「うふふふふ」
釘を刺す穂乃花に対し、楓は穏やかに微笑むのみなのが、開には逆に怖かった。
(楓さんの笑顔ってあんなに素敵で可愛いのに、たまに迫力感じるのはなんでだろう……)
そんな遣り取りはあったものの、穂乃花は無事に家族旅行に出発し、開は久々に楓と二人きりとなった。
「穂乃花さんが羨ましいですわ」
なにが、とは開は聞かなかった。
(楓さん、家族がいないんだよね。だから、家族ってものに凄く憧れてるって)
ここは主として、そして恋人として楓を元気づけなくては、と開は思う。
「楓さんはこの連休中、特に予定がないんだよね? だったら、僕と一緒に買い物にでも行かない? ほら、地元以外での運転にも慣れたいしさ」
開は大学に受かると同時に自動車の免許を取得した。だが、普段は人も車も少ない地元周辺しか乗らないため、交通量の多い場所での経験を積みたいとずっと考えていたのだ。
「ああ、それはとても好都合です。実はわたくし、急に遠出をする予定が入りまして、ご主人様も是非ご一緒に、と考えていたのです」
楓はぱん、と両手を合わせ、にっこりと微笑む。その愛くるしい笑顔と、ゆさりと揺れるバストに見惚れつつも、
(穂乃花が出かけた直後のタイミングで?)
楓の過去のあれこれを考えると、ほぼ間違いなく嘘だ。恐らくはかなり前からあった予定を、開にも穂乃花にも秘密にしていた可能性が非常に高い。
「遠出って、具体的にはどこまで? 日帰りできそうなところ?」
せいぜい県外、地元九州は出ないだろうという開の予想は、見事に外れた。
「えっ、本州!? 泊まり!? 宿泊先も予約済み!?」
すでに泊まるホテルまで決まっているのは、さすがに想定外だった。
(楓さん、急に予定が入ったって嘘を誤魔化そうともしないんだ……)
ここまで堂々とされると、苦笑するしかない。穂乃花にバレると色々と大変だと心配になる一方で、楓との遠出は、確かに胸躍るものがあった。
「用事って、なんなんです?」
「わたくしの所属する日本メイド協会のお仕事でございます」
「あー、やっぱり」
これは完全に予想どおりだった。
「デビューを控えた有望な新人メイドたちへの最終レッスンと合否判定を頼まれたのです」
「へえ。わざわざ楓さんを呼ぶなんて、なにか特別な事情があるのかな?」
「新人は一卵性の双子で、お仕えしたいと長年願っているのが、養父のような方なのです」
そう言って楓は、協会支給のスマートフォンを開に渡す。スクリーンには、メイド協会のデータベースが表示されていた。
「ええと、笹倉愛衣さんと、笹倉理緒さん……十五歳!?」
そっくりな顔をした双子姉妹の年齢に、開は目を見開く。
「あ、もう誕生日を迎えたので、今は十六歳ですね。高校一年生です」
「ご主人様候補は笹倉竜也さん、四十一歳……姉妹の遠縁の方なんですね」
「血縁的にはほとんど他人なのですが、この方は愛衣さんと理緒さんを実の父親以上に大切に育ててきたそうです。素晴らしい家族愛です」
楓はうんうん、と何度も頷く。
(楓さん、こういうのに弱そう)
「メイド候補生の二人はこの方を養父としても男性としても強く愛してらっしゃるみたいなのです。しかし、ご主人様候補の男性は世間体やら古臭い倫理観に囚われ、ご自分の気持ちに素直になれないとのことです」
姉妹と竜也の年齢やここまでの経緯を考えれば、それが普通だと開は思う。思うが、口には出さない。
(楓さんの中には、絶対に譲れないメイド論理あるからなぁ。ここに穂乃花がいたら、絶対になにか言ってそう)
開と違い、穂乃花は黙っていられないため、いつも二人は言い争いになる。もちろん、どちらも本気でケンカしているわけではないのだが。
「ああ、ご心配には及びません。このご主人様候補の身辺は、協会のほうでしっかり調査済みです。貴重なメイドの卵を危険な人物の元に派遣するわけにはいきませんので」
「そこまでするんですね。でもそれ、結構な手間じゃないですか? 費用面も含めて」
「はい。ですが、先々のことを考慮すれば絶対に必要な確認ですし、長い目で見れば充分にペイできる先行投資でもあります。また、こうした調査を専門とするメイド部隊も抱えているおかげで、外注に比べると費用も抑制できています」
「メイド部隊……」
メイド協会が一般常識から大きくかけ離れた組織であるのはすでに知っていたとはいえ、驚きは小さくない。
「調査の結果、このご主人様候補の方を籠絡……陥落……いえ、説得するには少々工夫が必要というのが協会の判断です。そこで、すでに穂乃花さんとのツーマンセルで開様にお仕えしているわたくしに講師の要請が来たのでございます」
協会上層部には複数人で一人の主に仕えているメイドもいるものの、より、今回の双子の状況に近い楓に白羽の矢が立てられたらしい。
「ただ、わたくしたちと候補生たちには一点だけ、差異があります」
「違い? どんな?」
「双子たちは姉も妹も同格メイドとしてご主人様にお仕えするつもりなのに対し、わたくしたちには明確な力関係が存在しております。わたくしが筆頭メイドでメイド妻ですので」
ここで楓は、誇らしげに胸を張る。巨大な膨らみと、それをやけに強調するエプロンドレスとも相まって、開の視線がバストに引き寄せられてしまう。
「ええと……それで、出かけるのはいつ? 明日?」
「いえ、一時間後でいかがでしょうか。ご安心ください、ご主人様の着替えなどの用意は、すでに済ませてあります」
にっこりと、穏やかに、しかし絶対に逆らえない空気を纏うメイドの笑顔に、開は「は……はい」と、頷くほかはなかった。
「つ、疲れた……」
目的地の旅館に着いた途端、開はばたりと部屋の畳に寝そべった。まったく土地勘のない場所への長距離・長時間ドライブは、思っていた以上の緊張と疲労があったのだ。
「お疲れ様でございました、ご主人様。研修が始まるまで、少しお休みくださいませ」
そんな開を自然な仕草で膝枕しながら、楓が微笑む。もっとも、たわわな双乳によって視界が阻まれているため、開から楓の笑顔はよく見えなかったが。
「こんな立派な旅館でするんですね、研修」
「協会理事の一人は、元々旅館業を営んでいたのです。協会の財政的な基盤の多くは、この方が築かれました」
「ああ、前にも言ってましたね。系列の旅館とかホテルで、メイド割引があるとか」
「はい。ちなみにわたくしもご主人様も、今回の宿泊料は無料です」
「えっ、そうなの? こんな立派な旅館の、こんないい部屋なのに? 割引じゃなくて?」
「はい。限定解除メイドの特権でございます。下位ランクのメイドは割引だけですけれど」
開の視界の大半を占めている胸が、ゆさりと揺れるのが見えた。どうやら、また自慢げに胸を張ったらしい。
(これ、言外に穂乃花と……初級メイドとは違うってアピール、自慢だよね)
「凄いね。さすが楓さん」
全身から褒めて欲しいオーラを発する歳上メイドに、開は素直に応じる。
「うふふふ、ありがとうございます」
「ところで、研修って具体的にはなにをするんです? 穂乃花のときみたいに、実地で?」
「座学や実地はすでにクリアしていると聞いてます。なので、わたくしはその総仕上げとして、より実戦に近い体験談を講義しようと考えてます」
「実戦……体験談……」
穂乃花をなんだかんだとメイドに追い込んだ楓の過去を思い出し、開は若干の、否、かなりの不安を覚えた。
「そこでご主人様にご相談なのですが……」
(来た。絶対に僕もなんかやらされると思ってたけど!)
どんな無理難題を要求されるのかと開は身構える。しかし、楓の頼みは拍子抜けするほどに簡単なものだった。
「え? 写真撮影とか、簡単な質疑応答だけでいいんですか?」
「はい。実はメイド候補生の双子は、ご友人とのお泊まり会という名目でここに来ております。そのアリバイ作りの写真を撮ったり、男性目線での意見を二人に伝えて欲しいのです」
普段の開ならば、楓がこの程度の要求で終わらせるとはすぐには信じなかっただろう。裏があるのではないかと疑ったはずだ。が、長距離ドライブの疲労と達成感で思考力が落ちいていた今の開は、素直に信用してしまう。
「それくらいなら、もちろん」
ただし、たとえ疑念を抱けたとしても、開が楓の企みをどうこうできた可能性は低い。つまり、このあとに開を待つ結末は一緒なのだ。
「ありがとうございます、開様」
もしもここに穂乃花がいたならば、満面の笑みの裏に隠された腹黒いものを女の勘で察したかもしれない。しかし、初級メイドはこのとき、家族旅行の真っ最中だった。
同時刻。
きゅぴいいいぃん!
「はううぅッ!?」
家族旅行中の穂乃花は、宿泊先のホテルでいやな予感を覚えた。全身に、電流のようなものが駆け抜けたのだ。
(なにか……なにかおぞましい気配を感じたわ! これは……楓さん!? あのおっぱいメイド、私の留守中にまたおかしなこと企んでるんじゃ……)
咄嗟にメイド協会から支給されたスマホを取り出し、開にメッセージを送る。
『大丈夫、こっちはいつもどおりだよ。旅行、楽しんでね』
そんな返事が来たが、穂乃花の表情は晴れない。
(おかしい。既読がついたあと、いつもよりレスが遅かった。嘘をついてるか、もしくは……楓さんがなにか入れ知恵した……?)
直接問い質そうとしたが、家族の手前、通話は思い留まる。
『ホントでしょうね? 家で大人しくしてる証拠として、夕ご飯の写真、あとで送りなさい!』
新刊は1冊。
青橋由高短編集16 メイド妻やります!(18禁)
青橋由高(著)
青橋商店
会場頒布価格800円
メロンブックス
とらのあな
美少女文庫の「メイドやります! 年上お姉さんとツンツン幼なじみ」の書き下ろし後日談となります。
ファンティアの有料会員向けコンテンツとして公開したものと同一です。
イラストはなし。160ページ。エロあり。
基本的には「メイドやります!」の楓さんと穂乃花メインです。楓さんのほうが出番多いです。
時系列的にはマドンナメイトの「メイド双子姉妹 巨乳美少女たちのシンクロ絶頂」の裏で進行している話ですね。
「双子姉妹」のほうは未読でも大丈夫ですけど、さすがに「メイドやります!」は読んでないとなにがなんだかわからないかと。完全にマニア向け。
以下、冒頭部分です。
第一章
「私が留守だからって、乱れた生活したら許さないからね、開!」
「うん、わかってるよ。穂乃花も、気をつけて楽しんできてね、家族旅行」
「ええ、おみやげ、買ってきてあげる。……私がいないからって、開に淫らな生活させないでくださいよ、楓さん!」
春の大型連休を利用して家族で旅行するという幼なじみ兼恋人兼メイドの少女は、開のすぐ近く、斜め後ろに立つもう一人に鋭い目を向ける。このポジションにも深い意味があるらしく、
『通常のメイドはご主人様の斜め後ろで、控え目で侍るのが基本ポジションとなります。ですが、すでに開様の実質的なメイド妻にしていただいたわたくしは、より近距離に控えさせてもらってます』
以前、どこか得意げに穂乃花に語っていたシーンを開は目撃していた。
「うふふ、もちろんですわ、穂乃花さん。この限定解除メイドにして筆頭メイド妻であるわたくしにすべてお任せくださいませ♥」
「その満面の笑みが逆に疑念しか招かないんだけどっ。明らかに、邪魔者のいないうちに開との二人きりを楽しもうって魂胆しか感じられないんだけどっ」
「うふふふふ」
釘を刺す穂乃花に対し、楓は穏やかに微笑むのみなのが、開には逆に怖かった。
(楓さんの笑顔ってあんなに素敵で可愛いのに、たまに迫力感じるのはなんでだろう……)
そんな遣り取りはあったものの、穂乃花は無事に家族旅行に出発し、開は久々に楓と二人きりとなった。
「穂乃花さんが羨ましいですわ」
なにが、とは開は聞かなかった。
(楓さん、家族がいないんだよね。だから、家族ってものに凄く憧れてるって)
ここは主として、そして恋人として楓を元気づけなくては、と開は思う。
「楓さんはこの連休中、特に予定がないんだよね? だったら、僕と一緒に買い物にでも行かない? ほら、地元以外での運転にも慣れたいしさ」
開は大学に受かると同時に自動車の免許を取得した。だが、普段は人も車も少ない地元周辺しか乗らないため、交通量の多い場所での経験を積みたいとずっと考えていたのだ。
「ああ、それはとても好都合です。実はわたくし、急に遠出をする予定が入りまして、ご主人様も是非ご一緒に、と考えていたのです」
楓はぱん、と両手を合わせ、にっこりと微笑む。その愛くるしい笑顔と、ゆさりと揺れるバストに見惚れつつも、
(穂乃花が出かけた直後のタイミングで?)
楓の過去のあれこれを考えると、ほぼ間違いなく嘘だ。恐らくはかなり前からあった予定を、開にも穂乃花にも秘密にしていた可能性が非常に高い。
「遠出って、具体的にはどこまで? 日帰りできそうなところ?」
せいぜい県外、地元九州は出ないだろうという開の予想は、見事に外れた。
「えっ、本州!? 泊まり!? 宿泊先も予約済み!?」
すでに泊まるホテルまで決まっているのは、さすがに想定外だった。
(楓さん、急に予定が入ったって嘘を誤魔化そうともしないんだ……)
ここまで堂々とされると、苦笑するしかない。穂乃花にバレると色々と大変だと心配になる一方で、楓との遠出は、確かに胸躍るものがあった。
「用事って、なんなんです?」
「わたくしの所属する日本メイド協会のお仕事でございます」
「あー、やっぱり」
これは完全に予想どおりだった。
「デビューを控えた有望な新人メイドたちへの最終レッスンと合否判定を頼まれたのです」
「へえ。わざわざ楓さんを呼ぶなんて、なにか特別な事情があるのかな?」
「新人は一卵性の双子で、お仕えしたいと長年願っているのが、養父のような方なのです」
そう言って楓は、協会支給のスマートフォンを開に渡す。スクリーンには、メイド協会のデータベースが表示されていた。
「ええと、笹倉愛衣さんと、笹倉理緒さん……十五歳!?」
そっくりな顔をした双子姉妹の年齢に、開は目を見開く。
「あ、もう誕生日を迎えたので、今は十六歳ですね。高校一年生です」
「ご主人様候補は笹倉竜也さん、四十一歳……姉妹の遠縁の方なんですね」
「血縁的にはほとんど他人なのですが、この方は愛衣さんと理緒さんを実の父親以上に大切に育ててきたそうです。素晴らしい家族愛です」
楓はうんうん、と何度も頷く。
(楓さん、こういうのに弱そう)
「メイド候補生の二人はこの方を養父としても男性としても強く愛してらっしゃるみたいなのです。しかし、ご主人様候補の男性は世間体やら古臭い倫理観に囚われ、ご自分の気持ちに素直になれないとのことです」
姉妹と竜也の年齢やここまでの経緯を考えれば、それが普通だと開は思う。思うが、口には出さない。
(楓さんの中には、絶対に譲れないメイド論理あるからなぁ。ここに穂乃花がいたら、絶対になにか言ってそう)
開と違い、穂乃花は黙っていられないため、いつも二人は言い争いになる。もちろん、どちらも本気でケンカしているわけではないのだが。
「ああ、ご心配には及びません。このご主人様候補の身辺は、協会のほうでしっかり調査済みです。貴重なメイドの卵を危険な人物の元に派遣するわけにはいきませんので」
「そこまでするんですね。でもそれ、結構な手間じゃないですか? 費用面も含めて」
「はい。ですが、先々のことを考慮すれば絶対に必要な確認ですし、長い目で見れば充分にペイできる先行投資でもあります。また、こうした調査を専門とするメイド部隊も抱えているおかげで、外注に比べると費用も抑制できています」
「メイド部隊……」
メイド協会が一般常識から大きくかけ離れた組織であるのはすでに知っていたとはいえ、驚きは小さくない。
「調査の結果、このご主人様候補の方を籠絡……陥落……いえ、説得するには少々工夫が必要というのが協会の判断です。そこで、すでに穂乃花さんとのツーマンセルで開様にお仕えしているわたくしに講師の要請が来たのでございます」
協会上層部には複数人で一人の主に仕えているメイドもいるものの、より、今回の双子の状況に近い楓に白羽の矢が立てられたらしい。
「ただ、わたくしたちと候補生たちには一点だけ、差異があります」
「違い? どんな?」
「双子たちは姉も妹も同格メイドとしてご主人様にお仕えするつもりなのに対し、わたくしたちには明確な力関係が存在しております。わたくしが筆頭メイドでメイド妻ですので」
ここで楓は、誇らしげに胸を張る。巨大な膨らみと、それをやけに強調するエプロンドレスとも相まって、開の視線がバストに引き寄せられてしまう。
「ええと……それで、出かけるのはいつ? 明日?」
「いえ、一時間後でいかがでしょうか。ご安心ください、ご主人様の着替えなどの用意は、すでに済ませてあります」
にっこりと、穏やかに、しかし絶対に逆らえない空気を纏うメイドの笑顔に、開は「は……はい」と、頷くほかはなかった。
「つ、疲れた……」
目的地の旅館に着いた途端、開はばたりと部屋の畳に寝そべった。まったく土地勘のない場所への長距離・長時間ドライブは、思っていた以上の緊張と疲労があったのだ。
「お疲れ様でございました、ご主人様。研修が始まるまで、少しお休みくださいませ」
そんな開を自然な仕草で膝枕しながら、楓が微笑む。もっとも、たわわな双乳によって視界が阻まれているため、開から楓の笑顔はよく見えなかったが。
「こんな立派な旅館でするんですね、研修」
「協会理事の一人は、元々旅館業を営んでいたのです。協会の財政的な基盤の多くは、この方が築かれました」
「ああ、前にも言ってましたね。系列の旅館とかホテルで、メイド割引があるとか」
「はい。ちなみにわたくしもご主人様も、今回の宿泊料は無料です」
「えっ、そうなの? こんな立派な旅館の、こんないい部屋なのに? 割引じゃなくて?」
「はい。限定解除メイドの特権でございます。下位ランクのメイドは割引だけですけれど」
開の視界の大半を占めている胸が、ゆさりと揺れるのが見えた。どうやら、また自慢げに胸を張ったらしい。
(これ、言外に穂乃花と……初級メイドとは違うってアピール、自慢だよね)
「凄いね。さすが楓さん」
全身から褒めて欲しいオーラを発する歳上メイドに、開は素直に応じる。
「うふふふ、ありがとうございます」
「ところで、研修って具体的にはなにをするんです? 穂乃花のときみたいに、実地で?」
「座学や実地はすでにクリアしていると聞いてます。なので、わたくしはその総仕上げとして、より実戦に近い体験談を講義しようと考えてます」
「実戦……体験談……」
穂乃花をなんだかんだとメイドに追い込んだ楓の過去を思い出し、開は若干の、否、かなりの不安を覚えた。
「そこでご主人様にご相談なのですが……」
(来た。絶対に僕もなんかやらされると思ってたけど!)
どんな無理難題を要求されるのかと開は身構える。しかし、楓の頼みは拍子抜けするほどに簡単なものだった。
「え? 写真撮影とか、簡単な質疑応答だけでいいんですか?」
「はい。実はメイド候補生の双子は、ご友人とのお泊まり会という名目でここに来ております。そのアリバイ作りの写真を撮ったり、男性目線での意見を二人に伝えて欲しいのです」
普段の開ならば、楓がこの程度の要求で終わらせるとはすぐには信じなかっただろう。裏があるのではないかと疑ったはずだ。が、長距離ドライブの疲労と達成感で思考力が落ちいていた今の開は、素直に信用してしまう。
「それくらいなら、もちろん」
ただし、たとえ疑念を抱けたとしても、開が楓の企みをどうこうできた可能性は低い。つまり、このあとに開を待つ結末は一緒なのだ。
「ありがとうございます、開様」
もしもここに穂乃花がいたならば、満面の笑みの裏に隠された腹黒いものを女の勘で察したかもしれない。しかし、初級メイドはこのとき、家族旅行の真っ最中だった。
同時刻。
きゅぴいいいぃん!
「はううぅッ!?」
家族旅行中の穂乃花は、宿泊先のホテルでいやな予感を覚えた。全身に、電流のようなものが駆け抜けたのだ。
(なにか……なにかおぞましい気配を感じたわ! これは……楓さん!? あのおっぱいメイド、私の留守中にまたおかしなこと企んでるんじゃ……)
咄嗟にメイド協会から支給されたスマホを取り出し、開にメッセージを送る。
『大丈夫、こっちはいつもどおりだよ。旅行、楽しんでね』
そんな返事が来たが、穂乃花の表情は晴れない。
(おかしい。既読がついたあと、いつもよりレスが遅かった。嘘をついてるか、もしくは……楓さんがなにか入れ知恵した……?)
直接問い質そうとしたが、家族の手前、通話は思い留まる。
『ホントでしょうね? 家で大人しくしてる証拠として、夕ご飯の写真、あとで送りなさい!』
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