スティグマータ
近藤史恵
新潮社(公式サイトはこちら
2016-06-22

得体の知れない過去の幻影が、ペダルを踏む足をさらう。それでもぼくたちはツールを走る。すべてを賭けて!

黒い噂が絶えない、堕ちたカリスマの復活。選手やファンに動揺が広がる中、今年も世界最高の舞台(ツール・ド・フランス)が幕を開ける。かつての英雄の真の目的、選手をつけ狙う影、不穏なレースの行方――。それでもぼくの手は、ハンドルを離さない。チカと伊庭がツールを走る! 新たな興奮と感動を呼び起こす、「サクリファイス」シリーズ最新長編。

 このシリーズの、というよりかは主人公のチカこと白石誓(しらいしちかう)の大ファンの私です。
 だからシリーズ1作目のアイツとかアイツは(以下、不適切な発言になるのでカット)

 そんな私にとってやっぱり一番好きなのは「エデン」。

エデン (新潮文庫)
近藤 史恵
新潮社
2012-12-24


 正直、ミステリー色は「サクリファイス」以降は薄まってサイクルロードレースを巡る人間ドラマがメインになってますが、個人的にはこれでいいと思ってます。チカが頑張ってるところを読むだけで私は幸せなのです。
 1作目以降、あのクズ…………げふんげふん、まあ、その、苛つくキャラどもが出てこないので、ストレスなく楽しめます。
 「エデン」なんてもう何十回も読み返してますし!

 そんな、もしかしなくとも偏った楽しみかたをしてる私ですので、新作が出ると聞いたときも期待と不安が半々でした。
 しかし今、過去の私に伝えられるとしたらこう言ってやるでしょう。「あの連中は今回も影も形もないし、チカは頑張ってるし、伊庭も出てくるし、色々と知ってるキャラがぎょうさん出てくるぜ! 楽しめるぜ! ひゃっはー!」と。

 登場人物たちがちょっと歳食いましたが(笑)、「エデン」(敢えて「サクリファイス」とは言わぬ)が好きだった読者ならきっと気に入ると、少なくとも私と同じような視線で読んでた人なら好きな作品だと思います。

 ミステリ的な観点だと、多分すぐに犯人?の魂胆は見抜けると思いますけど、違うの、楽しむのはそこじゃないの(勝手に断言)。チカたんを愛でる作品なの(これまた勝手に断言)!


 なんで私はこんなにもチカが好きなのか、今作読んで改めて考えてみました。
 主役になることを諦めて、己の能力を必要以上に客観視して、だけどときどき明るいステージを夢見ることをやめられない、そんなチカにちょっとだけ自分を見てるのかな、と。
 僅かなちくちくを覚えつつも脇役に徹することに誇りを抱く、そんな姿がとても好きなのです。

 「エデン」同様、この「スティグマータ」でもチカがチカらしく輝くシーンがあって(一緒に走るのが彼、というのがまたたまらん)、ああ、いいなぁ、と感動するのです。

 本筋には特に関係ないのですが、終盤、ある選手がステージ勝利するシーンでの一文が凄く印象に残りました。
星を手にした人間がいるということは、妬ましいけれども大きな希望でもあるのだ。
 ……ああ、そうだ、伊庭に対するチカのある心の動きも、私には他人事ではなくて、凄く刺さりました。本当に、凄く個人的な感情なんですけれども。