同人誌「千冬姉はやらかしたい!」に収録している短編「衝撃映像IS学園編」の前半サンプルです。
 完全に好き勝手書いてることがよくわかるかと。

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 俺の元に差出人の名も消印もない荷物が届いたのは、土曜日のことだった。
「なんだ、これ?」
 一応中身を警戒しつつ開封すると、一枚の光学ディスクだけが入っていた。
 これが自宅の郵便ポストにでも入っていたのなら悪友の弾がエッチな動画でも焼いたのだろうと容易に見当がつくが、警備の厳重なIS学園の寮に届けられていた時点でその線は消える。
 考えられるのは学園内部の人間だが、
「いや、待てよ。もう一人だけいたな、容疑者が」
 俺の身内には約一名、そんな警備などものともしない超絶天才がいたことを思い出す。姉の親友であり、幼なじみの姉でもある、ウサ耳がやたらと似合うあの人だ。
「まあ、中身を見てみれば差出人もわかるか」
 呟きながら椅子に腰かけ、ディスクを端末に読み込ませる。
『この世には科学で説明できない様々な現象が存在する……』
 そんな重々しいナレーションと同時に「IS学園恐怖映像全集」という文字が、おどろおどろしいフォントで映し出された。ナレーションは女性の合成音声らしかったが、なんとなくどこかで聴いたことがあるような声だった。
 一瞬特番を録画したビデオかとも思ったものの、そんなわけがないとすぐに気付く。
(IS学園編って書いてあるもんな。新聞部が作ったのか、これ?)
 だが、新聞部がビデオカメラを回してる姿をあまり見た記憶がない。写真や音声はこちらの許可なくしょっちゅう撮影されたり録音されたりしてるが。
 首を傾げつつ、ディスプレイに視線を注ぐ。
『第十位。戦慄!睨む目』
「おー、凝ってるなぁ……って、おい、これ俺とシャルだろ!?」
 そこには、並んで座席に座っている俺とシャルの姿があった。服装や窓から見える風景から推測するに、臨海学校の買い物に行ったときのものだろう。
『仲睦まじく恋人のように寄り添う幸せなカップル。だが、そんな二人を睨みつける瞳があった……』
「え? そんなのどこにあった?」
 自分とシャルに気を取られていた俺には、この映像のどこに異常があるかわからなかった。いや、そもそもこんなビデオを隠し撮りされてたこと自体が異常なんだが。
『ではもう一度ご覧いただきたい。カップルの横のガラス窓に注目……』
 カップルじゃないっつーの、とツッコミを入れつつ、窓を注視していると……
「うわあっ!」
 確かにそこには、俺たちを睨むような不気味な目が光っていた。
 高速で走るモノレールの外にある時点で、それは人ではない。
『まさにこの世のものとは思えない禍々しい瞳の主は、果たしてこのカップルとどんな関係があったのだろうか……』
 なんとなくその瞳に見覚えがあるような気がしたが、幽霊に知り合いはいないのでただの勘違いだろう、うん。

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『第九位。海の亡霊』
 お、今度は臨海学校の映像か。
 このときは色々あったなぁ、と懐かしみつつも、クラスメイトたちの水着姿についつい目が行ってしまうのは高校生男子の性だから許してもらいたい。いや、全然興味ないほうがおかしいよな?……って、俺は誰に言い訳をしてるんだ。
『なんの変哲もない真夏のビーチ』
 よくよく見るとウチの生徒しかいないって時点であまり普通でもないんだが。
(あー、のほほんさんの水着、めっちゃ目立つな。……あれを水着と言っていいものならば、だけど)
 あのときはセシリアにオイル塗ったり鈴が溺れたりしたっけなぁ、なーんて思い出してると、今度は俺が映ってるシーンが流れてきた。
 セシリアの白い肌にオイルを塗ってる俺、鈴を肩車してる俺、そしてラウラに水着の感想を伝えてる俺だった。
(な、なんなんだこのビデオ。誰が、なんの意図で撮ったんだ?)
 そんな疑問に首を傾げていると、
『そして成熟ボディ』
 今度はなぜか千冬姉と山田先生のアップが映し出された。
「ぶっ!」
『眩しい日差しにきらめく魅惑の女体』
 なんの意図があるのかは不明だが、カメラは千冬姉を撮しまくっている。
(うおおお、まずいまずい、千冬姉の黒ビキニ、やっぱすげぇ……!)
 もしこの場にシャルがいたら「一夏、また鼻の下伸びてる」とか言われそうだが、幸い、部屋には俺一人だ。
『こんな穏やかな海に現れた亡霊をご覧いただこう』
 さっきと同じように、同じ映像が繰り返される。今度はどこに幽霊(?)が映ってるのかと俺も身を乗り出して画面を見つめた。
「…………なんか映ってる」
 俺にオイルを塗られてるセシリアを睨むように、黒髪の女らしき影が岩陰から顔半分だけを出していた。
 俺に肩車されている鈴を睨むように、黒髪の女らしき影が砂浜から顔半分だけを出していた。
 俺の前で妙にもじもじしていたラウラを睨むように、黒髪の女らしき影が海から顔半分だけを出していた。
「って、全部同じ幽霊(?)じゃん!」
 気のせいか、さっきのモノレールに出てきた霊(?)ともよく似てるように俺には見えた。
 あれ、もしかして俺、取り憑かれてるのか……?

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 この後も、俺や俺の知り合いばかりが映ったビデオが次々と出てきた。
 俺とシャルが二人で入浴してるところを窓から逆さまになって睨む目。
 俺と箒が一緒に花火を見上げてるところを足下から睨む目。
 俺が全裸のラウラに肘関節を極められてるところをベッドの下から睨む目。
 これらは間違いなく盗撮されたものであり、しかもその全部に黒髪の女が画面の端々に映っている。
 最初はただの悪戯だと思っていたが、さすがにだんだんと怖くなってきた。
 幽霊とかそういう意味じゃなく、もっとこう、現実的な恐怖として。
 だってさ、この女が現れてるシーンって、必ず俺も映ってんだぜ? 怖くもなるさ。
(これ、やっぱり束さんだよな。IS学園のセキュリティ突破してこんな画像撮れるのなんて、世界中でもあの人くらいだろうし)
 ビデオに映ってたのは俺の周囲の人間ばかりだったが、不自然なほどに箒が多かった点からもこの推測は裏付けられる。
(でも、そうなるとおかしいところもあるんだよな)
 これの制作者というか犯人は状況証拠からまず間違いなく束さんだ。
 だけど、そうなると一つ大きな疑問が出てくる。
(あの人が隠し撮りするなら、絶対に箒だけじゃなく千冬姉も撮りまくると思うんだけど)
 俺や箒に比べ、千冬姉が映ってる割合が不自然に少ないのが引っかかる。
 確かに千冬姉を隠し撮りするのは難しいだろう。実際、ビデオの中で千冬姉はカメラに気付いてるような素振りを何度か見せている。
 それにしても、俺や箒に比べると少なすぎると思える。
(そもそも束さん、なんの目的でこんなもの作って俺に送りつけたんだ?)

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 色々な意味で怖い衝撃映像もいよいよラスト一本となった。
『では最後に、最凶の映像をご紹介しよう』
 ナレーションも、そう思って聞くとどこか束さんの声に似ている。機械で加工したのだろう。
 あの稀代の天才がなぜこんなことに手間暇情熱をかけるのか、俺には正直理解できないが、そもそもあの人を理解できる人がこの世にいるのかが疑問だ。
(ああ、一人だけいたか)
 この世で唯一、束さんと対等の人間を俺はよく知っている。
『第一位。室内に蠢く闇より深き情念』
 俺があの強く気高く美しい姉のことを思ってるあいだに、ビデオはいよいよ佳境に入った。
「んん? なんだ?」
 さて最後はどんな衝撃映像かと身を乗り出した俺は、すぐに首を捻った。
 映し出されたのは、どう見てもこの寮の、俺の部屋だ。
 それはいい。さっきから何度もこの部屋は映っていたから、あとで束さんが仕掛けたのであろう隠しカメラを探り出そうと思ってたところだし。
「でもこれ……俺だよな?」
 束さん(もう断定)のナレーションも消え、ディスプレイにはきょろきょろと辺りを見回す俺の姿が流れている。試しに手をひらひらさせてみると画面の中の俺も同じ動作をしたから、これはリアルタイムの映像で間違いない。
「束さん、なんのつもりですか」
 どうせ音声も拾ってるんだろうと尋ねてみるが反応はない。
 どれくらい沈黙が続いただろうか、俺の耳に再び束さんの声が聞こえてきた。
『おわかりいただけただろうか。ベッドの下に注目して、もう一度ビデオを見てもらおう』
 数分前の映像が映し出される。
「え? な、なんだ、これ……!」
 ベッドの下に、なにか人の顔のようなものが見えた。しかもその瞳の先には、ビデオを見ている俺がいる。幸い、その視線に悪意のようなものは感じられなかったが、怖いことには変わりない。
 俺は慌ててベッドの下を覗いてみたが、もちろん誰もいない。
 ほっと安堵する俺だったが、床に一本の髪の毛が落ちてるのを発見した。
 色と長さからすると俺やセシリア、シャル、ラウラ、鈴のものではない。箒にしてもちょっと短い。もちろん束さんでもない。
「まさか」
 一人だけ。たった一人だけ、俺には思い当たる人物がいた。
 俺に気配を悟られることなくベッド下に潜み、そして気付かれることなく立ち去るスキルを持つその人だが、俺の部屋に忍び込む理由などない。
「なんなんだ、いったい」
 念のため部屋を隅々まで探してみたが、やはり俺以外誰もいなかった。
「……」
 気のせいだったか、あるいは束さんがまたなんか無駄な技術を使って、リアルタイム映像に人影を合成したのかも、と思い込もうとしたそのとき、部屋のドアがノックされた。

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(この続きは「千冬姉はやらかしたい!」をご覧くださいませ)