予告どおり、第2弾です。
 これは「ここは妖怪メイドアパート」の本編、第4章で説明できなかったちょっとしたネタのショートショートになります。文庫換算で3ページ強くらいですね。
 簡単に言うと、八雲が夕食の支度を頼んだのは久遠だったのに、どうして実際に料理をしたのがダナだったのかという、ただそれだけの話です。

 ネタバレになる可能性もなくはないので、未読の方はスルーされることを推奨。買って読んでからどうぞ。
「僕の代わりにみんなの分の夕食、作ってくれないかな。委員会の仕事で遅くなりそうだから」
「かまいませんけれど……それは命令かしら?」
「ううん、ただのお願い。もちろん無理にとは言わないけど」
「いいですわ、それくらい。……なにが食べたいんですの?」
「え?」
「だから、なにを作ればいいか聞いてるんですわ」
「ああ、うん、八千代さんがサバの味噌煮食べたいって言ってたかな。あ、ダナからカレーをリクエストされてたっけ」

 八雲の言葉に久遠の眉根が寄る。

「私は八雲の好みを聞いてるんですわ。あなたはなにを食べたいんですのっ」

 好きな男に手料理を食べさせたいという乙女心に、久遠のまなじりが持ち上がる。

「え。だけど八千代さんとかダナも食べるわけだし」
「なんならあの人たちの分は別に作りますわよっ。私が聞いてるのはあなたが食べたいものですの!」

 鈍感少年はなぜ久遠が機嫌を害してるのかわからないらしく、困ったような表情を浮かべる。

「えっと……じゃ、じゃあ、煮物がいいかな。里芋とイカの入ってるやつ」
「ああ、富さんが得意だったあれですわね。ええ、わかりましたわ」

 煮物は富から教わっているから得意だ。願ったり叶ったりのリクエストに久遠は口元に笑みを浮かべる。
 しかし久遠がこの日、八雲のために料理をすることはなかった。



 久遠がうきうきと食材の買い出しをしていた頃、福富荘の台所ではダナが夕食の準備を進めていた。

「ここの住人はみんな料理が上手で助かるねー」

 手際よく料理をする吸血鬼の背中を、畳の上でごろごろしていた八千代がぼんやり眺めている。

「八千代もたまには自分で作ったらどうですか。いつもマスターに酒のツマミを作らせて。メイドの風上にも置けません」
「あたし、本気になれば料理できるからね?」
「本気にならないなら一緒です」
「ま、そうかもね」

 あははは、とだらしなく着物を乱した座敷童が笑う。頬に畳の痕が浮かんでるのは、さっきまでここで寝ていた証拠だ。

「それはそれとして、なんでダナちゃんがお料理してるの?」
「今日はマスターの帰宅が遅れると連絡がありましたから」
「だけど、その連絡が来る前からごそごそやってたよねー」
「……八千代は無駄に鋭いです」
「えへへー、褒めてもらって嬉しいな」
「褒めてません」
「もしかしてこのあと、どっかに出かけたりするのかな? だからその前にやっくんや久遠ちゃんの代わりにあたしのご飯用意してくれてる?」
「……八千代は無駄に鋭いです」
「えへへー、二度も褒めてもらって嬉しいな」
「ご推察のとおり、わたしは支度が終わったら少し外出しますので、夕食は久遠と二人でとってください」
「りょーかーい。やっくんによろしくねー」
「……八千代は無駄に鋭いです」

 そして夕食の支度を終えたダナがどこかへと出かけたのと入れ違いに、買い物袋を持った久遠が帰宅する。

「おかえりー」
「ただいまですわ。……え? どうしてもう支度が終わってるんですの?」

 ダナが用意していった夕食を見て、久遠が目を見開く。
 久遠が富直伝の里芋とイカの煮っ転がしを披露するのはこの翌日のことだった。