通常サイズお姉ちゃんには逆らえない!

青橋由高(著)・みさくらなんこつ(イラスト)
美少女文庫

公式サイトはこちら(サンプルあり)
「可愛すぎるぞ!」「大好きですわカナくん」
左右から巨乳で挟まれて、耳をはむはむ、ほっぺへChuChu!
和奏と綾華は姉神の依り代に選ばれるほど超絶ブラコン!
凛々しい剣道姉とエロエロ変態姉に弟は甘やかされて搾られて……
いちゃ2混浴、3P部活、黒と白が織りなすWウェディング!

その3から続く)

 取り敢えず裏話は今回が最後。多分。
 では、思いつくまま、公表できる範囲で裏話を。

 まず中盤以降に出てくる姉山のモデルは、千葉県にある鋸山です。ロープウェーなんか丸々そのままですね。でも私、一度も行ったことないのです……。
 その姉山、大した標高でもないのになんで山小屋あんだよ、というツッコミしたい方もいらっしゃると思います。実際、自分でも調べたり、山に詳しい知人(Fさん、ありがとうございます)にも確認しましたが、普通はないです、あの高さでは。
 で、どうしてあるのか、という設定も別に考えましたけど、本編には関係ないし、いざとなったら姉神様がなんとかしたんだろ、うんそれでいいや、と完璧に逃げました。
 本筋に関係ないからいいですよね?

 あと、フェアなどで特典SS(エピローグ直後の話)を読んだ方への言い訳もあるのですが(方向が違うだろう、とか、あれ、叶の荷物は買ってあるんじゃなかったか、とか)、これの説明するとネタバレになっちゃうのでしばらく封印します。
 数年後くらいにこのSSをなんらかの形で公開できたときにでも。

 ええと、書ける範囲だとこんなもんですかね。

 では最後に、カットしたテキストを公開します。20ページくらいかな?
 完成版とは違い、初期のバージョン(というか本来のプロット)では和奏と綾華はそれぞれ叶を自分たちの部活に引き入れようと争うんですよね。
 ところが書いててちょっとキツくなってきたので、ざっくりとカット、書き直したわけです。
 ……今調べたら20ページくらいありました。おおう。相も変わらず効率の悪い執筆スタイルだな、私は。

 また、完成稿とは違う設定もいくつかあったりしますね。ここらへんは二転三転して、確か4回くらい修正した記憶があります。書きながら設定考えたり変更するってのは本当に無駄が多いです……。

 ほとんど校正してないので、誤字脱字とか、文章がおかしいのは無視してください。
 ネタバレ要素もあるかもしれませんので、未読の方は注意。エロシーンはないからねー。

/////和奏視点/////

 この日の放課後、剣道部主将・音杉和奏は新入部員勧誘に気合いが入っていた。
(今日こそはこいつを口説き落とす。姉の威厳にかけても、なんとしてもうちに入部させてやるからな)
 言うまでもなく、勧誘相手は義弟であり最愛の想い人である音杉叶である。
(さっさと入部させておかないと、美術部に、綾華に横取りされかねん)
 実妹であり最強の恋敵でもある綾華に先を越されてはたまらないと、和奏は強引に剣道場に引っ張ってきた叶の前で部のいいところを懸命にアピールし始めた。
「もう何度も言ってるが、我が部は基本、参加したい者だけが自由に顔を出せばいいことになっている。だからお前が家の用事をしたいならば、別に無理に部活に参加しなくてもいい」
 久須野高校は進学校であるせいか、それほど目立った結果を残す部活はない。特に体育会系では初戦敗退レベルの部が大半を占める。昨年、和奏が県大会で準決勝に進出しているが、これはかなりの例外だ。
 和奏が好成績を残したからといっていきなり練習が厳しくなったり目標が高くなった、なんてことはまったくなく、基本的には緩い雰囲気のまま新年度を迎えていた。
「とまあ、そんなわけだから、軽い気分でここにサインをすればいいのだ、我が弟よ」
 剣道部の部長である和奏は、目の前で正坐している叶に向けて入部届の紙を差し出す。
「それでも、僕は今のところ部活をするつもりはないんだけど……」
「わかってる。叶の言い分も、もちろんお姉ちゃんは理解しているぞ。だがまずはこれにサインをしろ。話はそれからだ。入部したらゆっくり話を聞いてやる」
「それ全然わかってないよね、お姉ちゃん」
 道場の隅で交わされる姉弟の会話を、準備運動をしながら数人の部員たちが聞いている。
「諦めろ、音杉弟。うちの部長はしつっこいからなー」
「いいじゃないの、入部しちゃえば。気が向いたときだけ練習に来るだけでオッケーだよー」
「そうそう、我が部はゆったりまったりのんびりがモットーだからねぇ」
 部員の声にうんうんと頷きつつ、剣道着と袴が似合う黒髪ポニーテールの美少女は改めて叶に入部を促す。
「部員たちもこう言っているんだ、大人しく署名してしまえ。なに、部長である私が言うのもあれだが、我が剣道部は楽だぞ。顧問もいい加減だし、部長も、そして次期部長に指名しようと考えてる現副部長もゆるゆるだ、案ずることはない」
 和奏の言葉に、今度は部員たちがうんうんと頷く。それを見て叶が微妙な表情を浮かべたことに和奏は気づくが、敢えて無視をする。
(叶のことだ、どうせ「この部、大丈夫かな」とでも思ってるのだろうが、これくらいゆるゆるだからこそ、私は在籍してるのだぞ。そこんところわかってるのか、お前)
 和奏が剣道を始めたのは小学生からだが、その理由は「可愛い弟を守るため」だった。基本的に音杉姉妹の行動原理は弟に起因していることが多い。綾華が言うところの「人間原理ならぬ弟原理」である。
 姉神の神通力があるのだから別に直接和奏が叶を守る必要もないが、それでも……と考えてしまうのがブラコンの性だ。
 もっとも、さすがに高校に入ってからはだいぶ肩の力が抜け、以前ほど熱心に稽古をしていない。
「今なら優しい部長による手取り足取り腰取りのマンツーマン稽古特典もあるぞ」
 誰もいなくなった道場で愛する弟と二人きり……という魅惑のシチュエーションを想像し、ポニーテールの似合う美少女剣士は口元をだらしなく緩める。部員たちの目があるので、かろうじて涎を垂らすことだけは堪えた。
「さあ叶、入部届にサインをするのだ」

/////綾華視点/////

「さあカナくん、入部届にサインしてくださいな」
 己のテリトリーである美術室に叶を連行することに成功した綾華は、周囲から「白姫」と賞賛される美貌に満面の笑みを浮かべながら、入部届を差し出した。
「……」
「あら、なんですか、その微妙な表情は? まるでデジャヴでも見たような顔ですね」
 綾華が上機嫌なのは、姉のテリトリーである剣道場から逃げるように出てきた義弟をタイミングよく補足できたためだ。放課後になると同時に叶の教室に行ったら一足早く和奏に引きずられていったと聞き、念のため剣道場の近くで張り込んでいたのが功を奏した。
(姉様のことだから、きっと強引にカナくんに入部を迫ったんでしょうね。確かにこの子には押しの一手が有効ですけど、逃げられたら意味がありません)
 その点わたしは違いますから、と三桁に達する豊乳を強調するように腕組みをしながら綾華は心の中で呟く。
(美術部員にはここに来ないよう頼んでありますし、入口も施錠しました。焦らずじっくりたっぷりねっとりしっぽりとカナくんを懐柔しちゃいますからね。うふふふ)
 やや垂れ気味の瞳を僅かに細め、ターゲットである少年をじっと見つめる。気持ち前傾になってるのは、自慢のバストをより強調するためだ。
「そんなに緊張しないでください。それとも、お姉ちゃんと密室で二人きりだから、別の期待をしてたりします?」
 綾華は互いの息が感じられるくらいにぐっと顔を寄せ、探りを入れてみた。少し前までであればこうした姉のからかいは軽くはぐらかしただろうが、最近の叶はそれができなくなっている。それを確かめるための微笑とセリフだった。
「な、な、なにを期待するの? 僕、別になんにも」
 そんな罠にまんまとはまり、叶は露骨に動揺する。この一、二年で急に男っぽくはなったもののまだまだあどけなさの残る弟の狼狽える姿に、綾華はにんまりと笑う。
(あらあら、こちらの期待以上の反応をしてくれますわね。こんなときでもお姉ちゃんを喜ばせてくれるんだから、ホントにカナくんは理想の弟です)
 叶は先程、堀に対して「お姉ちゃんたちの様子が変だ」と語っていたが、実は「弟の様子が変だと気づいた」姉たちが行動を開始した、というのが正しい。
(長かったですわよ、カナくんがお姉ちゃんたちのことを女として見てくれるようになるまでは)
 接近する姉から距離をとろうとする叶をずりずりと椅子ごと追いかけつつ、綾華は数年に及んだ和奏との共同戦線を思い返す。
『姉神様にお願いすればきっと叶は私たちに恋するだろう。だが、それでは意味がない。あくまでも叶が自主的に私たちを好きになってくれなければダメなのだ』
『同感ですわ姉様。ですが、カナくんがわたしたちを姉としてだけでなく、一人の女としても愛してくれるようになるため、色々と誘惑するのはアリにしませんか?』
『うむ、それはいい考えだ。それにあまり距離を置きすぎても、その隙に私たち以外の女が割り込んでくる危険性がある』
『そうですわね。でしたら、こういうのはどうでしょう』
 そのときに綾華が和奏に提案したのが神通力を使った休戦及び同盟の申し出だった。
 叶の意思を無視して既成事実をこしらえるのは潔しとせず、姉神の力で唇と性器の接触、つまりキスとセックスを封印した状態で、二人で協力して義弟をその気にさせる、というのが目的である。
 姉神に願って、弟との唇と性器の距離が一センチ以上接近できないよう制限をかけてもらったのは、音杉姉妹が互いに抜け駆けをしないための保険でもあった。
『このキスとエッチの封印、いつまで続けるんだ?』
『もちろん、カナくんがわたしたちをお姉ちゃんとしてだけでなく、女としても意識してくれるまでですわ』
『だが、どうやってそれを判定する?』
『だったら、こういうのはどうです? カナくんがわたしたち二人を本当に欲してくれるようになったときに、なにかサインが浮かび上がる、というのは』
 その合図として姉神に設定してもらったのが、先週叶の背中に浮かび上がったハート型の痣だった。
(あれを見つけたときのわたしと姉様の気持ち、カナくんにはわかりますか? 凄く嬉しかったんですよ? お姉ちゃん、幸せすぎてちょっとイッちゃったくらいなんですからね?)
 この一週間、綾華と和奏がキスをしまくるなど積極的になったのは、神通力によるストッパーが解除されたせいだ。無論、相思相愛だとわかったため、というのもある。
 すでに和奏とは小学生のときに「一緒に幸せになろうよ」条約が締結されているため、姉と骨肉の争いになることはない。残る争点は、どちらが先に可愛い義弟を自分の部に引き込むか、そして叶の初めてをいただくか、の二点に絞られている。
「ねえカナくん、昔みたいに一緒に絵を描いてみませんか?」
 叶の童貞を食べるにはまず、二人きりになれる時間を増やし、チャンスの確率を高めるのが先決となる。だからこそ綾華も和奏も互いに自分の部に叶を引き込もうと必死なのだ。
「無理だよ。子供の頃ならまだしも、今はもう……」
「あら、どうしてですの?」
 綾華は尋ねるふりをしながら身を乗り出す。あらかじめ開けておいた制服の胸元から、深い谷間を見せつけるのが目的だ。
「ど、どうしてって……綾姉みたいな凄い人と一緒と描くなんて無理に決まってるってば」
 ここで叶の言っている「凄い」は、綾華が何度か賞をもらってることに対してなのだろう。けれど綾華本人は自分に芸術方面の才能があるとはまったく思ってないので、腰が引け気味の弟に不満を覚える。
(わたしの作品は、ただカナくんへの溢れんばかりと愛情とリビドーをこねてぶつけただけのものなのに)
 一部の関係者から「奇才だ、異才だ」と賞賛されてはいるものの、所詮はまだ学生レベル、イロモノ扱いされているに過ぎないと綾華は自覚している。そもそもが、芸術方面に進むかどうかも怪しい。これまでの活動はすべて、どこにも発散できない義弟への想いをただ闇雲にぶつけただけなのだから。
 もっとも、本人が思ってる以上に高い評価を受けていることを綾華が知らないのもまた事実だったが。
「わたしは全然凄くないですわ。でも、もしそう思ってくれてるなら、それはカナくんのおかげです」
「僕? どうして?」
「カナくんも知ってるように、お姉ちゃんの作品は全部、弟が、つまりカナくんが題材ですもの。初めて賞をもらった『わたしの、弟』も、新聞にも取り上げてもらった『弟のいる風景』も、個人的に一番気に入ってる『THE−O ジ・オトウト』も、カナくんのおかげなんですから」
 このうち、抽象画である『弟のいる風景』は新聞で見て気に入ったという人物に熱心に頼み込まれ、現在は都内の喫茶店に展示されているほどだ。これが綾華が芸術家として初めて売れた作品でもある。
「ね、だから美術部に入ってくれませんか? カナくんが望むなら、お姉ちゃん、いつでもモデルになりますわよ? もちろん、ヌードでもヌードでもヌードでもかまいません」
 ヌード、という単語を聞いた瞬間の弟の反応を綾華は見逃さなかった。
(うふふ、正直ですね。お姉ちゃんの裸を見たいって気持ちは弟として当然ですけれど、やっぱり嬉しいものですわ)
 ここは押しの一手と、綾華はさらに上体を叶に寄せながら両腕でその豊乳を寄せて自慢の、深い深い胸の谷間をアピールする。
 綾華の裸などもう数え切れないほど見てるにもかかわらず、叶の視線は真っ直ぐに姉のバストに注がれ、ブラコン美少女を喜ばせる。
(ああ、イイ、イイですの、弟に視姦されるの、最高ですわ……!)
 己の胸元に感じる叶の突き刺さるようなまなざしに秘裂がじゅんと潤み、白のニーソックスに包まれた両脚を無意識に擦り合わせてしまう。
「カナくんが指示してくれれば、わたしはどんなポーズでもしてあげますわよ? お姉ちゃんのヌードを見られるのは、世界中でカナくんただ一人ってこと、忘れないでくださいね。ふふふ」
 危うくこぼれそうになった涎を手の甲で拭いながら、綾華はさりげなく、そしてそつなく、少年の独占欲を刺激するようなセリフを付け加える。これは同時に、綾華が好意を寄せているのは叶ただ一人であることを遠回しに伝えてもいる。
 叶の背中に相思相愛の証が浮かんだ以上、ストレートに「好き」と伝える手もあるにはあるのだが、綾華も和奏も、そうはしなかった。
(だって、せっかくだからカナくんのほうから告白してもらいたいですもの。お互いに好き合ってるのはもう自明ですが、だからこそ愛の言葉を弟の口から聞きたいと願うのは、女として、姉として当然ですわ……!)
 姉とはここまで具体的な話はしなかったが、同じ弟を愛する姉同士、言葉は交わさなくとも心は伝わっている。もちろん、どちらが先に叶うから告白を引き出すかでライバル心を燃やしてるのも事実だ。
「春ですわね。部屋の中だとちょっと暑いくらいですわ。ここにはカナくんしかいませんし、脱いじゃおうかしら?」
 あと一押しで叶が陥落すると判断した綾華は、頬を興奮に赤らめながら、制服を脱ぎ始めた。

/////叶視点/////

 久須野はこの数日、町のあちこちで不可解なトラブルが頻発していた。
 周囲は快晴なのに季節外れの大雪が降ったり、停電と断水が発生したりといったレベルから、自動販売機からお釣りが出なくなった、学校の購買にやきそばパンが入荷されなかった、完治したはずの水虫が再発した、などといった微妙なものまで含めると、町民のほぼ全員がなにかしらの不具合に遭遇していた。
 にもかかわらずケガ人が出なかったという時点で、事情を知る人間たちはすぐにこの騒動の原因に思い至った。
「姉神様だな、これは」
「姉神様ですね、これは」
「姉神様じゃのお、これは」
 これらのセリフを発したのは、叶の義父、市長、そして久須野出身で大臣になったこともある国会議員だ。この三人の大人に囲まれるようにして正坐しているのは、急遽呼び出しを食らった叶である。
(ううう、い、居た堪れない……っ)
 だらだらと脂汗を流しつつ、この場から逃走したい気持ちと必死に戦い続ける少年に対し、義父が問いかける。
「で、叶よ、お前、なにやらかした? っつーか、あのバカ娘どもはお前にどんなワガママ要求してきやがったんだ?」
 幸いにも咎めるような口調ではなかったため、叶は少しだけ安堵する。
「お、お姉ちゃんたちに、部活に勧誘、されました」
「それでキミは、どちらの誘いに乗ったの?」
 何度か挨拶をしたことがある女性市長の声にも、やはり叶を糾弾するような響きは感じられない。
「僕はどっちにも入部しないつもりです」
「ふむ、悪くない判断じゃ。さすが、長年姉神様の弟役を務めてきただけのことはあるの」
 テレビでもたまに見かける大物政治家の表情も穏やかで、どうやらこの場は叶を断罪する場ではないようだと、ようやく少しだけ気持ちが落ち着く。
「安心しろ、叶。別にお前を叱るためにここに呼んだわけじゃない」
「そうよ。私たちは久須野市民の安全のために状況を確認したいだけなの」
 久須野安全保障委員会という仰々しい名前を持つ彼らの目的は、姉神の力を守り伝え、この地の安寧と発展を維持することだという。
「まぁ、平たく言えばでっかい檀家みたいなもんじゃがのお」
 老議員の言うとおり、確かに叶も姉神神社で彼らの姿を見た記憶がある。
「今回の騒ぎの原因が姉神様にあるのは明白じゃ。ま、この程度の問題なら放置しておいてもかまわんのじゃがの」
「先生、この程度、とは言い過ぎですわ」
「いやいや、きみは知らんだろうが、先々代の頃はこんなもんじゃなかったそうじゃぞ? 弟役が依り代とは別のおなごと浮気をしたらしいが、そのときは姉山が小規模ながら噴火した上、姉川が氾濫し、町のほとんどが水没したと聞いておる」
 この話は叶も父や親類たちから何度も聞かされて知っていた。同時に、「だからお前は絶対にお姉ちゃんたちを怒らせるなよ」とも念を押されてきた。
「だからな、叶。現状くらいの被害ならまだ笑い話で済む。けれど、これより悪化させてはならない。わかるな?」
「そうね。この町はある意味、我が市の最も重要な地域なの。市民の安全を預かる首長として、そして久須野で生まれ育った一個人としても、キミの最善の対応を期待してるわ。なにかできることがあればなんでも言ってちょうだい」
「金でも人でも権力でも、必要があれば言うがいいぞ。わしらの運命は姉神様、すなわち依り代たちとおぬしにかかっておるのじゃからな」
 父と市長と国会議員に取り囲まれたいっかいの高校生にできる応対は、
「は、はい、全力で久須野の平和を守りますっ」
 と裏返った声で答えることだけだった。

/////叶視点/////

 久須野の平和を守る、という大仰な響きに対し、
(どうやってお姉ちゃんたちに納得してもらえばいいんだろう)
 その中身はブラコン女子高生たちのご機嫌取りであり、それを実行しなくてはならない十五歳の少年は自室に戻り、頭を抱えていた。
 剣道部にも美術部にも入らない、という最初の選択肢が正解ではなかったのは、久須野を襲った数々の事象が証明している。
(姉神様とお姉ちゃんたちの意識はリンクしてるから、これ以上ストレス溜められるとまずい)
 通常、姉神は依り代たる姉妹の不満を解消したり願望を叶える方向に神通力を使う。だが、具体的な解決策がない場合は、今回のように無差別に被害が発生するのだ。
 唯一の例外が弟で、久須野では文字通り絶対神である姉神も力を行使できない。
 先程話に出てきた山の噴火や川の氾濫も、浮気をしでかした弟に直接危害を加えられないがゆえに、その怒りの矛先が別のところに向いた結果だ。
(あ。あの話に出てきた浮気相手の女の人ってどうなったんだろ)
 弟には手出しできなくとも、他の人間には神通力を及ぼせる。
(うう、怖い想像しかできない……)
 万が一自分が姉以外の誰かに恋をしてしまったらどんな悲劇が待っているのかと、叶はぶるりと体を震わせた。
(ああ、でも、これは平気か)
 しかしすぐにそんな事態にはならないだろうと思い直す。なぜなら、叶が想いを寄せる相手は昔も今も、そしてきっと未来も和奏と綾華の二人だけだからだ。
 もっとも、この恋心を姉たちに告げる機会が来るとは叶も思ってはいない。血が繋がってないとはいえ姉弟なのだし、和奏も綾華もいずれ誰か別の男を好きになるだろうと考えてるためだ。
 無論、これが大間違いであることは、叶以外の全員が知っている。
 少年は知らない。
 久須野安全保障委員会のメンバーが現在、
「叶もなぁ、とっとと娘たちとくっつけばいいのに」
「立場上言えないけれど、それが一番なのよねえ」
「既成事実こしらえてくれりゃ、少なくともわしが生きてるあいだは久須野も安泰なんじゃがのぉ」
 当人たちのいないところで好き勝手言っていることを。
(残る選択肢は、剣道部か美術部のどちらかに入るってことか)
 叶は考える。
 剣道部を選んだ場合は綾華の、美術部を選んだ場合は和奏の機嫌が悪くなるのは間違いない。
(前にもあったな、こんなこと)
 中学生のとき二人からクリスマスプレゼントをもらったのだが、偶然にもどちらも手編みの手袋で、どちらを使うかでちょっとした騒ぎとなった。
 当初は一日交替で使っていたのだが、使われなかったほうは不満たらたらで、しばらくのあいだ叶は板挟み状態に苦しまされた。
 姉神の力は姉妹が同じことを願わなければ発揮されないため、今回のように周囲に被害は出なかった代わりに、叶一人が甚大な精神的ダメージを被ったのだ。
(あ。なんか色々思い出してきちゃったぞ)
「そうか、叶は私が編んだ手袋などいらぬというのだな」
 拗ねまくる和奏と、
「カナくんはわたしの手袋が気に入らないのですね」
 落ち込む綾華の表情が脳裏に甦る。
 和奏や綾華はその外見や言動から周囲に大人びた印象を与えているが、本当は逆に子供っぽいところがある。
 そんな姉たちのあいだで、叶はずいぶんと神経を磨り減らしたものだ。
(ワガママだし頑固だし意地っ張りだし負けず嫌いだしすぐ拗ねるし泣くし……)
 もちろん、そういった面を見せてくれるのは姉が自分に心を許してくれてるからだと知っている。そこに優越感も覚えるし、嬉しさもある。
(だけど今回はそうも言ってられないんだよなぁ。現実に被害が出ているんだから)
 クリスマスの一件は最終的に、右手に和奏の、左手に綾華の手袋を同時にすることでどうにかこうにか二人に納得してもらえたので、今回も同じ方向の対策で解決できないものかと叶は頭を捻る。
 周囲は「だったら両方に入部すればいいじゃないか」と気楽に言ってくるが、それは結局、一日交替で手袋を使ったあのときと同じ結果になりかねない。
 叶からすると、交互に使うのも、片手ずつ使うのもそう差はない気がする。しかしあの二人にとっては違うらしいのだ。
(ダメ元で、掛け持ち入部でいいか、お姉ちゃんたちに聞いてみよう)

/////叶視点/////

 夕食後、いつものように特に用事もないのに弟の部屋にやって来た和奏と綾華に掛け持ちの件を切り出したところ、
「ダメだ」
「ダメですわ」
 二人は間髪を容れず、しかも姉妹同時に「NO」を返してきた。
「な……なんでダメなの?」
 ある程度は予測していたとはいえ、心のどこかでは少しだけ「ああ、それでもいいだろう」「わかりましたわ、妥協してあげます」という展開も期待していた叶は、自分でも想像していた以上に落胆する。
「掛け持ちということは、どちらも中途半端になるだろう?」
 和奏の言葉に綾華がうんうんと頷く。
「そ、それは……うん……そうなる、かも」
 確かに、叶の体が一つしかない以上、いくら頑張っても部活に費やせる時間は通常の半分となる。
「和奏お姉ちゃんも綾姉もそれぞれ真剣に部活してるんだから、そんなところに僕みたいな不真面目なのが入ったらまずいもんね」
「あら、それは違いますわよ?」
「違うって?」
「自慢じゃありませんが、我が美術部はわたしを含め、全員が好き勝手に活動しています。気が向いたときにふらりと現れるような人間ばかりです、今さら掛け持ち部員の一人や二人入ったところでなんの影響もないですよ?」
「うむ、剣道部も同じだ。叶もこないだ見学したからわかってると思ったがな。なんなら稽古などせず、私の凛々しい姿を眺めてるだけでも一向にかまわんのだぞ?」
 姉妹揃ってなぜか自分の部のゆるさをアピールしてくる。
「だったら、どうして掛け持ちはだめなの?」
 叶の感覚だとここが理解できなかったので尋ねてみた。
「簡単だ」
「簡単ですわ」
 これまた姉妹のセリフがシンクロする。見た目の印象は全然違っても、根っこの部分は本当によく似た二人なのだ。特にブラコンという点においては。
「掛け持ちとなれば、交互にそれぞれの部に顔を出すことになるだろう?」
「それですと、もう一方のお姉ちゃんは寂しくなるじゃありませんか」
「どちらにも入ってなければまだ諦めもつくが、掛け持ちだと常に浮気されてるようで実に落ち着かん」
「前にもありましたわよね、こんなこと。そう、クリスマスプレゼントの手袋で」
「ああ、あったな。あのときも叶に説明したはずだぞ?」
「わたしたちはカナくんを独り占めしようとは思ってません。可愛い弟はお姉ちゃんたちの大切な宝物なんですから」
「手袋のときに言っただろう、お前も弟ならば、常に二人の姉を同時にかまえと。愛せと。世話を焼けと」
「手袋と同じです。交互に使うのではなく、半々でもいいから一緒にしてもらいたいんですわ、お姉ちゃんたちは」
 身を乗り出してきた姉たちが交互に、そして一気にまくしたてる。完全にペースを奪われてしまった格好だ。
「な、なんとなくわかった……ような気が、する」
 姉たちのセリフをもう一度頭の中で整理して、叶は頷く。
「でも、だとすると僕は剣道部にも美術部にも入れないよね?」
「……そうとも言うな」
「あれ? だったらなんでお姉ちゃんたち、僕を勧誘したの? もしも僕がどっちかに入部することになったら、どうしたの?」
「そ、それはあれですわ、その……あれなんです」
 和奏と綾華はいきなり言葉を濁し始める。弟から視線を逸らし、明らかに誤魔化しに入っていた。
「あれって、どういうこと?」
「頭ではわかっていても、それでもやっぱり可愛い弟と楽しい部活動をしたいという姉心がなぜわからんのだ」
「そうですよ。カナくんはもうちょっと姉心を勉強するべきです」
「……なんで僕が叱られる流れになってるの?」
 叶は思わずそう呟くが、不利になると姉という立場を利用して押し切ろうとしてくるのはいつものことなのでそれ以上はなにも言わない。
(結局、僕はどうすればいいんだろう……)
 和奏と綾華、二人の講師による臨時の姉弟論を聞きながら、姉神の力の暴走を抑えられる唯一の存在である少年は苦悩を続けるのだった。