ツンツンメイドはエロエロですツンツンメイドはエロエロです
青橋由高(著)・有末つかさ(イラスト)
美少女文庫

公式サイトはこちら(サンプルあり)

その2から続く)

 すっかり恒例となった私のページ超過。当然、あちこち削ります。今回は100ページ弱削りました。
 ただ、まとめてカットしたシーンは意外と少なく、再利用できそうなのは2シーンのみ。
 うち1つはオータムリーフさんの特典ペーパーに使ったので、残りをここで公開します。

 当初は3章で使うはずだったシーンとなります。
 ネタバレはそんなにしていませんけれど、一応、本編を読み終わってからのほうがいいとは思います。
 エロはありませんのであしからず。
 文庫換算で6ページほどです。


 以下、カットシーン。
 三年に進級して一週間、教室にも徐々にグループができて、昼休みになるとそれぞれにまとまって弁当や購買のパンを食べる光景が展開される。
 栄春と桐葉の所属するクラスメイトはその多くが二年のときと同じのため、基本的にはグループもあまり変わらない。栄春と桐葉が一緒に弁当を食べる、というのも同じだ。大抵は互いの友人を加えた男女混合グループのことが多かった。
 しかし、ここ数日はずっと二人きりの食事になっている。
(うおおお、突き刺さるっ、教室中の視線が痛いっ)
 理由はもちろん、メイドゲームだ。
 学校ではやめてくれと何度も懇願したにもかかわらず(だからこそ、かもしれない)、桐葉はしつこく「ご主人様」を繰り返すものだから、すっかり注目の的だ。他のクラスにも知れ渡っているようで、
「さすがエロシュン、幼なじみをメイドにするとは」
「針山さん、とっととあんな男と縁を切ればいいのに」
「いったいどんなネタで脅迫してるんだ、栄春のヤツ」
 廊下を歩いていると後ろ指を指されることが増えてきた。
「誤解だ、脅迫されてるのはむしろ俺だ、お前らは知らないんだ、あいつの、桐葉の本性を! 外面がいいだけで、本当はすっげーサディストなんだ!」
 などと叫びたい衝動に駆られたりもしたが、そんなことをしたらどんな報復が待ってるかわからない。それこそ、シュンをけしかけられて全身穴だらけにされるだろう。
 そんなことを考えていたら、
「どうしたのご主人様、いつにも増して間抜け面を晒して。箸が止まってるわよ」
 向い側の席で弁当を食べていた桐葉が探るような目で栄春の顔を覗き込んできた。
「まさか、私の愛メイド弁当に不満でもあるのかしら」
 愛メイド弁当とは、愛妻弁当のメイドバージョンらしい。語呂が悪いが桐葉はお気に入りらしく、よくこの造語を使う。
「ちっ、見せつけやがって」
「俺にもあんな幼なじみがいれば……ッ」
「栄春、いつか殴る。そして蹴る」
 桐葉が「愛メイド弁当」という単語を口にするたびに男子生徒の嫉妬にまみれた視線が飛んでくるものだから、どうにも落ち着かない。
「……お前、わかってて言ってるだろ」
「なんのことかしら」
「ご主人様だの愛メイド弁当だの、作為と悪意と他意しか感じねーし」
「でも、同性のやっかみは嬉しいでしょ? 優越感に浸れて喜んでるくせに」
「ぐっ……」
 そういった感情がゼロではないだけに言い返せない。
「感謝なさい。私のような美少女にかしづかれたりちやほやされたりできる己の幸福を」
 こういったセリフのときだけしっかり声量を落とし、栄春にしか届かないよう喋るのだから質が悪い。
「お前にかしづかれたりちやほやされた記憶はどこにもねーんだが」
「心外ね。おはようからおやすみまで、夢の中でもご主人様へご奉仕してるじゃないの」
「悪夢は見たな、何度も」
「淫夢の間違いじゃなくて?」
「そこまで俺は溜まってねえよっ」
「そうよね。今日も朝勃ちの処理してあげたものね。昨日の夜、散々搾り取ってあげたのに、あんなに濃いの出すなんてびっくりしたわ」
「うおいっ!」
 慌てて周囲を見渡すが、幸い聞かれてなかったようだ。もちろん、そこまで計算した上で桐葉は話してるのだろうが、心臓に悪い。
「……それで話を戻すけど、なにをぼーっとしてたのよ。私に見惚れてたって以外の理由なら正直に白状なさい」
 栄春と桐葉の会話はとにかく脱線しまくるので、このように突然軌道修正されることが多い。周囲の人間に言わせると、ついていくのが大変らしい。
「可愛くて美人の幼なじみに見惚れてました」
「そう、ありがとう。でもそんなの当然のことだから別に今さら嬉しくないわ。……で、さっきはなにを考えてたのかしら?」
 嬉しくないなどと言ってるわりには、表情が少しほころんでいる。親しい人間でないとその変化は微小すぎてわかりづらいが。
「いや、お前の作ってくれた弁当が美味いなーと」
「それも当然だから褒めても無駄よ」
 そう言いつつ、さらに口元がほころぶ。
「本当に大したことじゃねえんだって。シュンのことだよ」
 弁当を食べつつ、桐葉のペットであるハリネズミの名を口にする。
「あの子がどうかしたの? 今日は連れてきてないけれど」
 ポッドからお茶を注ぎながら桐葉は首を傾げる。
「普通は連れてこないんだよ、学校には」
「でもあの子は人気あるから連れてくるとみんな喜ぶじゃないの。唾棄すべき男としてこの学校に君臨する本家とは真逆ね」
「俺はそこまで嫌われてないぞ!」
「絶対って言い切れるの?」
「た、多分……」
「断言できない時点でダメなのよ。本当にご主人様はダメねえ」
 ダメ、というところを強調するところが実に桐葉らしい。
「二度も繰り返すな」
 シュンは栄春の名前が元ネタだった。名付け親は桐葉である。
 ハリネズミにしてはやたらと活動的かつ妙に人懐こく利口なため、以前から肩や頭に乗せて散歩させることが多かった。
「散歩はともかく、学校に連れてくるのはおかしいだろ。常識で考えて」
「でも誰にも咎められてないわよ? ご主人様と違って」
「いちいち俺を引き合いに出すなよ! そもそも俺は咎められてない!」
「いいじゃないの、ほとんど鳴かないし大人しいしみんなに可愛がられてるし」
「そりゃそうだけどさ」
 よくも悪くも大らかな校風なのだ。シュンを一番猫可愛がりしてるのが副校長という点からもわかる。ハリネズミなのに猫可愛がり。
「んでな、生物部のやつから、シュンのために新しいエサを用意したからたまには連れてこいって言われたんだよ」
 教室だと騒がしくてストレスになるだろうと、生物部にシュン専用のケージがあるのだ。副校長がポケットマネーで買ったという噂もある。
「そうね。あの子、食に関しては好奇心旺盛だから、来週にでも連れてくるわ」
「あいつ、ホントになんでも食べるよなぁ。でも、美味そうに食うから、ついついあれこれ食わせたくなる」
「世話をしてる側からすると、食べてくれないよりずっと楽だわ。用意したエサはちゃんと全部胃袋に収めてくれるし、なにより、美味しそうに食べてくれるとこっちも嬉しくなるしね」
「……なぜそこで俺を見る。なぜ」
「私から見れば、ご主人様もシュンも同じようなものね、と思っただけよ。ああ、今日のエサ、足りたかしら?」
「弁当をエサとか言うな! 足りたよ、今日も美味かったよ!」
 そう言って空の弁当箱を見せると、桐葉は「そう」と小さく呟いたあと、嬉しそうに目を細めるのだった。