
青橋由高(著)・悠樹真琴(イラスト)
美少女文庫
ページが足りないことが判明した第一稿から真っ先に削ったのがこのシーンです。
本筋には関係ないし、他のお姉ちゃん2人との分量の兼ね合いもあったので削るのは妥当な判断だったと今でも思ってますが、でも個人的には是非やりたかったのがこのしょりしょりシーン。
実際にやりたかったのはこれとはちょっと違ってましたけどね。
なお、完成版とは設定が変わってるところがあるのでいくつか矛盾点もあります。ツッコミ不許可(笑)。
本編の大きなネタバレはないと思います。多分。
時系列的には、希望と初エッチする少し前となります。だから全体でも序盤のほうですね。
晩酌の片付けを終え、希望に指示されたとおり浴室のドアを龍之介がノックしたのは、日付が変わった直後だった。
「希望姉さん、僕だけど」
同じ屋根の下で暮らす他の姉たちを気遣い、小声で名乗る。
もっとも、沙月は苦戦していた原稿を夕方に終わらせたばかりで明日の昼までは爆睡だろうし、美容に気を遣う流音はとっくに夢の住人だ。
そもそも浴室と姉たちの部屋はかなり離れているから、よほどの大声を出さない限り聞こえる可能性はまずない。
「き、来たか。入れ」
「えっ。あ、うん」
龍之介が躊躇したのは、脱衣カゴに希望がさっきまで着ていた服が脱ぎ散らかされていたためだ。下着も放り投げられている。
(ってことは……姉さん、今、お風呂場の中で裸……!? でも、僕をここに呼び出したんだから、用事はアレのはずだけど。も、もしかして、背中を流せとか!? 一緒に入ろうとか!?)
期待に胸を高鳴らせたシスコン少年は早速ドアを開けて室内に踏み込む。
「……ああ」
入室した龍之介が複雑な表情を浮かべたのは、過大な夢を裏切られたショックと、ある程度予測していた幸運が同時に訪れたせいだ。
「なんだ、その顔は。突っ立ってないでとっととドアを閉めろ」
そう叱り飛ばす希望はもちろん全裸などではなかったが、
(うわぁ、姉さんの水着、久々に見た……!)
シスコン弟を歓喜させるには充分過ぎるほどの蠱惑的な格好をしていた。
希望の女体を包んでいるのは、現役時代に愛用していた競泳水着だ。洗濯機が使えないため、いつも手洗いしていた水着だからよく覚えている。
「用件は、言わなくともわかるな?」
「う、うん」
「なにを赤くなってるんだ、バカがっ」
そういう希望も耳がほんのり赤い。
(現役の頃と比べて、なんだか色っぽくなってるなぁ)
元オリンピック候補選手の引き締まった女体は現役時に比べて全体的に丸みが加わり、姉大好き男子高校生の脈拍を一気に上昇させる艶を帯びている。
「ぼさっとするな、とっとと始めるぞ」
いつもより明らかに早口な希望が、龍之介に物言う隙を与えずにまくし立ててくる。浴室灯に照らされた頬がうっすら赤い。
(ううん、ほっぺただけじゃなくて、身体中ピンク色になってる……!)
機能性を追求したスイムウェアを身に纏った希望は紅潮した顔を弟から隠すように背けると、
「その……ウチの水泳部のコーチを頼まれて、だな」
赤くなった耳をこちらに向けたまま口を開いた。
「ああ、顧問の先生にずっと頼まれてたって言ってたよね」
希望は現在、部活の顧問は担当していない。が、現役時代の経歴を評価する水泳部の顧問から、ずっと誘われ続けてきたという。
「私の泳ぎはかなり独学が入ってるし、人に教えるのも苦手だからな」
そう言ってずっと固辞し続けてきたそうだが、歳上のベテラン教師の頼みをいつまでも断るわけにもいかず、遂に折れたらしい。
「期間限定の臨時コーチでいいから、と頼まれてしまったこともあるが、他にも理由があってな。……お前、谷口美波って覚えるか?」
「確か、姉さんと同じ大学だった人、だよね」
龍之介が言葉を選びながら答えたのは、希望と美波がただの友人関係でないと知っているからだ。平たく言えば、ライバルという表現が適切だろうか。
「こいつも今、別の高校で教師をしてるんだが、どこで聞きつけたのか、ウチと合同練習をしようと言ってきた」
「ああ……なるほど」
美波は水球、希望は競泳と種目は違うのだが、この二人、現役を引退しても教師として競い合うつもりらしい。
「む。なんだ、その顔は。龍之介のくせに生意気だ」
弟に心情を読まれたのが悔しいらしく、じろりと睨まれた。無論、シスコン少年にとっては愛しい姉の視線はむしろご褒美である。
「ご、ごめん。……じゃあ、姉さんが僕にやらせたいってことはやっぱり……」
「あ、ああ、そうだ。コーチを引き受ける以上、やはり部員たちに手本を見せる必要もあるしな。水着は避けては通れん」
「んー……」
龍之介は改めて姉の水着姿を見る。いや、凝視する。
「だけど姉さん、僕が見たところ、大丈夫そうだよ? 元々姉さんは毛が薄いし」
弟の視線に気づき希望は慌てて股間を両手で隠す。
(あ、恥ずかしがってる。姉さんの羞じらう表情も新鮮で可愛いなぁ)
普段の強気で凛々しい希望ももちろん好きだが、家族にだけときおり見せる、こういった一面が龍之介にはたまらないのだ。希望にとって自分が特別なのだと確認できるのは、この上ない喜びでもある。
「遠目だと問題なく見えるだろうが、至近距離だと、その……結構微妙なんだ。お前だってそれは知ってるはずだ」
ますます肌を紅潮させ、希望が恥ずかしそうに言葉を返す。
「じゃ、じゃあ……うん、久々にアレ、しよっか」
「しようか、じゃない。しろと言ってるんだ、うつけめ」
憎まれ口を叩く姉の頬はまるで熟したトマトのようだった。
(相変わらず、こういうときでも腕まくりすらしないんだな、こいつは)
目の前で「処理」の準備を進める弟を眺めながら、希望は心の中で溜息をつく。
季節は夏へと向かい、気温と湿度は日々上昇を続けてるというのに、龍之介は学校の夏用制服以外では常に長袖を着ている。
(私に気を遣ってるのだろうが、逆効果だとなぜ気づかんのだ、この唐変木めが)
本人は「僕、冷房がダメだから」と言い訳してるが、それが嘘であるのは希望が一番理解している。冷房が苦手なら、どうして長袖のシャツを着用してるくせに下は半ズボンなのか。明らかに不自然だ。
「あ、あの、姉さん、準備できたけど」
「そ、そうか。では……頼む」
シャツに隠された龍之介の右腕から急いで視線を逸らし、風呂椅子に腰かける。
「じゃあ……始めるね」
「ああ、頼む」
希望は目を閉じ、その身を弟に委ねる。
(久々だな、こいつにこれをさせるのは)
これ、とは、全身のむだ毛処理のことだ。
希望は元々毛が薄い体質だが、それでも試合前は少しでも抵抗を減らすため、そしてマナーとして全身を処理している。
「塗るね。冷たいから気をつけて」
「……んっ」
あらかじめ希望が浴室に持ち込んでおいたローションが、龍之介の大きな手のひらでゆっくりと全身に塗り込まれていく。冷たいと言いつつも人肌になってるのは、龍之介があらかじめ手のひらで温めてくれたからだろう。
「ふん、ちゃんとやり方を覚えてたか。……ん……っふ」
体毛が薄いからカミソリではなく脱毛クリームを利用する手もあるが、一度試したところ肌が負けてしまって以来、使っていない。
(最後にしてもらってからもうだいぶ経つせいか、妙にぞくぞくするな……くうぅっ)
目を瞑ったまま、希望は唇をきゅっと結んで平静さを装うが、頬がときおりぴくぴく動くのは、全身を這う弟の手に甘い悦びを感じてるせいだ。
姉を気遣ってるのか、必要以上に優しいタッチでローションを塗り込んでくるのだが、それがまるで愛撫のように二十三歳の女体を喘がせる。
(声が……変な声が漏れる……あああ、龍之介の手が、指がぁ……)
ローションまみれの手がうなじから肩、背中、腕へと移動していく。
「くひっ!」
最も大きな声が出てしまったのは、両腋にたっぷりと塗り込まれたときだ。
(ううう、聞かれた……あんな声をぉ……ああン!)
一度ローションを補充した龍之介の大きな手のひらが再び希望の肌へと近づく。上半身に続き、今度は下半身だ。
「あふっ……ん……ああぁ」
下唇を噛んで声を堪えようとするのだが、弟の手がふくらはぎから太腿へとじわじわと上がってくるたびに肢体が風呂椅子の上で震えてしまう。
(ふ、太腿、太いとか思われてないか? 現役時に比べてむっちりしたとか呆れられてないか?)
龍之介がどんな表情をしてるのか、怖くて目を開けられない。
「姉さん、やっぱり……ここも?」
遠慮がちなその質問がどこを指してるかは、瞼を閉じたままでもわかっている。股間のデリケートゾーンのことだ。
「当たり前だ。そこが……そこが一番大事なのはお前も知ってるだろう。変なことを聞くな、うつけ」
恥ずかしさを押し隠し、「さっさとやれ」と思い切って股を開いてローションを塗りやすいようにしてやる。
「…………ンン」
太腿を這っていた指がゆっくりと、女教師の敏感な領域へと迫る。
いまだに弟以外が触れたことのない処女の柔肌に、温かい指が優しく、気遣うようにローションを塗ってくれる。
「み、見たところ、別に処理は必要ないと思うけど」
「今はよくとも……んぅ……水に浸かったり、泳いだときにはみ出したら……うふぅ……まずいだろうが……アアッ」
Vゾーンのはみ出しを確認するため、龍之介が顔を股間へと寄せてきた。
(そんなに近づけるな、恥ずかしいだろうがっ)
むだ毛の処理をさせておいて恥ずかしいもないものだが、希望にも事情がある。
無論、可能であればこんなことは自分一人で済ませたいところではあるものの、希望は自他共に認める不器用な女だ。物理的な意味で。
初めて自分で剃ってみようとカミソリを購入したところを過保護な弟に見つかり、
「希望姉さんは刃物持ったらダメ!」
と激しく反対されてしまう。
意地っ張りな希望は「平気だ、この程度」と突っぱねるが、シスコン少年は「じゃあ、試しに僕の腕でやってみてよ」と己の右腕を差し出してきたのだ。
バカにするな、とムキになって弟の二の腕にローションを塗り、カミソリを当てたところで、希望の記憶は飛んでいる。
気がついたときには布団に寝かされていて、側には心配そうに姉を見つめる龍之介の姿があった。龍之介の右腕には真新しい包帯があり、それを視界に収めた瞬間、希望はすべてを悟ったのだ。
(あのとき以来、こいつは私に右腕を見せようとしなくなってしまった……)
沙月や流音に聞いたところ、龍之介の二の腕には小さくない傷痕があるらしい。希望に記憶はないが、その原因が己であるのは間違いない。
「やっぱり、姉さんは刃物持っちゃダメ。僕がやるから。いいね?」
傷つけた負い目もあって希望は龍之介のこの申し出を承諾したが、内心は申し訳なさでいっぱいだった。
もっとも、実際のところは希望が考えてることとはいささか異なっている。
龍之介が自分の傷痕を隠してるのは確かに姉が負い目に感じないように、との気遣いだが、むだ毛処理を買って出たのは希望の肌を慮った他にも理由がある。
大好きな姉の肌に堂々と触れられ、そしてデリケートな箇所の処理をする行為は、シスコン少年にしてみればまさに夢のようなものだ。
「は、始めるよ」
その証拠に、龍之介の声は興奮に上擦っている。
「好きに……しろ……んっ」
ただ、同じくらい昂ぶっているせいで希望はそのことに気づかないだけである。
(ああ、全身ぬるぬるの姉さん、すっごく綺麗で色っぽいよ……!)
ローションまみれになった愛しい姉の肌に、龍之介は細心の注意をもって女性用カミソリの刃をあてがう。
まずはうなじから。そして肩や背中のうぶ毛を丁寧に剃っていく。
「あ……ん……ふぁ……ん」
くすぐったいのだろう、刃が肌の上を滑るたびに競泳水着に包まれた姉の身体がぴくぴくと小刻みに震え、男子高校生の心臓を高鳴らせるような艶めかしい声が浴室に響く。
(希望姉さんのこんな声、他の男には聞かせたくない)
龍之介の知る限り、希望に男の影はない。しかし、知らないだけで恋人がいたかもしれない。今も、いるのかもしれない。想像するだけで嫉妬で頭がおかしくなりそうになる。
「お、おい龍之介」
左右の腕にカミソリを這わせているとき、声をかけられた。相変わらず目は閉じているし、頬もうっすらピンク色のままだ。
「お前にだけ教えておくが、私も来年、担任をすることになった」
「えっ、本当? おめでとう、姉さん!」
「まあ、教師としてはこれからが大変だがな。……あっ」
最後の「あっ」は、龍之介が腕を持ち上げたせいだ。それはつまり、上半身の山場、腋の処理に入ることを意味する。
(……なんだ。こっちも綺麗だ)
希望が目を瞑ってるのをいいことに、無防備な腋窩を至近距離で観察するが、白い肌は処理が必要ないほどにすべすべしている。どうやら、以前龍之介がプレゼントした女性用の電気シェーバーを使っているらしい。
(うう。自分で用意したものだけど、でも、なんか悔しい……。恥ずかしいのを必死に堪える姉さんの表情が見たかったのにぃ)
重度のシスコンを患っている少年は残念がるが、それでもよくよく見れば僅かにうぶ毛のようなものもなくはない。そっとカミソリを当てると、敏感な肌を傷つけぬよう、細心の注意をもって刃を滑らせる。
「う……うぅ……そ、それでだ、お、お前もそろそろ進路をどうするかをだな……んっ」
羞恥を誤魔化すように希望が話を続ける。これまで何度もこうした処理を弟にさせてはいるものの、やはり慣れることはないのだろう、閉じた瞼が小刻みに痙攣を繰り返す。
「進路って……僕、まだ一年生だよ?……はい、こっちは終わり。次、反対側ね」
「あ、ああ。……あふン!……い、一年生だろうと……早すぎることはない……ん……そもそもお前の口から将来の話を聞いたためしが……アァ」
ローションで覆われた敏感肌をカミソリが往復するたびに水着女教師の身体がくねり、いつの間にか半開きとなった唇から甘い吐息が漏れる。
(希望姉さん、昔より敏感になってるのかな。凄くびくびくしてるし……声、色っぽすぎてたまらないよ……ぉ)
龍之介の股間はもうずっと勃起状態だ。腰を引いてどうにか膨らみを隠しているが、もしも希望が目を開けたらあっと言う間にバレるだろう。
「お前はまだ実感ないだろうが、高校の三年間などすぐに終わるぞ。それに、高校一年ならばもう大人に片脚突っ込んでるようなもんだ。……あ、こら、そんなにしつこくするな……んぅ……っ」
「ご、ごめん、痛かった?」
「痛くはないが……その、多少、くすぐったい」
瞼を閉じたまま、恥ずかしそうにそう答える希望の表情があまりに可愛くて、龍之介は危うく水着姿の姉を抱き締めたい衝動に駆られてしまった。
「で、でも、やっぱりまだ、将来のことはあんまり考えられないんだ」
見えないのをいいことに、吐息が当たるのではないかと思うほど顔を腋に近づけ、ことさらゆっくりとカミソリを動かし、姉の美しくも淫靡な肌を目と指とで味わう。
(舐めたい……姉さんの腋に顔を埋めて、いっぱい舐め回したい……!)
変態的な欲望を抱きながらも、シスコン弟は名残惜しそうな顔で左右の腋窩の処理を終える。
「じゃあ、今度は脚、剃るね」
「ああ、頼む。……進路が決まってないなら……どうだ、お前、このまま家庭に入ってもいいんだぞ? 無論、大学は卒業させるが」
「家庭に入るって……?」
脛の処理を進めていた龍之介が首を傾げながら希望を見上げる。姉の頬や耳はまたさらに赤みを増していた。
「言葉どおりの意味だ。私はお前が一番よく知ってるように不器用だし、生活能力は皆無に近い」
「沙月お姉ちゃんよりはマシだと思うよ」
「アレと一緒にするな。あっちは放置すれば三日で死ぬが、私は一週間は堪えてみせる」
「あんまり変わらない気もするけど」
苦笑を浮かべつつ、さりげなく姉のふくらはぎや太腿の感触を手で楽しむことは忘れずにカミソリを動かし続ける。現役時代に比べてやや肉付きが良くなり、より女らしさを増した美脚の感触を味わうことももちろん忘れない。
(柔らかいよぉ……姉さんの脚、あったかくてすべすべしててぷにぷにしてて……たまんない……っ)
「大きく違うぞ、バカ。……ただ違うのは、沙月姉さんは自活不可能なダメ人間だが、その分、金は稼いでる」
「確かにお姉ちゃんの本、売れてるもんね」
「だから、いざとなれば誰かお手伝いさんでも雇えば済む問題だ。あの人の世話をするのはお前でなくともいい」
「……」
希望のこの言葉に、龍之介の表情が寂しげに歪む。シスコンにとって姉の世話をすることは負担ではなく、むしろご褒美なのだから。
「その点、私の稼ぎはたいして多くない」
(希望姉さん、なにが言いたいんだろう?)
デリケートゾーン以外の処理をすべて終わらせた龍之介は首を捻る。
「が、お前一人を養う程度は稼げる。……私の言いたいこと、わかるな?」
「え。いや、よくわかんないんだけど」
「それくらいわかれ、バカ者がッ」
突然叱られてしまったが、わからないものはわからないのでどうしようもない。
「……まあ、いい。まだ時間はある。この話はまた次の機会にしよう。今は……こっちが先だからな」
そう言うと希望は瞼を上げ、僅かに濡れた瞳でこちらを見下ろしながらゆっくりと両脚を左右へと開いた。全身にはびっしょりと汗をかき、紺色の水着はそれを吸ってさらにぴったりと肌に張りついている。
汗とローションとで妖しく濡れ光る姉の水着姿にぐびりと生唾を呑み込むと、龍之介はいよいよ最後の処理に取りかかった。
「あ、あまりじろじろ見るな」
「見ないと切っちゃうもん」
恥ずかしがる希望の赤い顔をちらりと見上げて脳内メモリに書き込むと、龍之介は再び姉の股間に目を向けた。
(じっくり堪能したいところだけど、さすがに集中しないとまずいもんね。大好きな希望姉さんの肌を傷つけるわけにはいかないし)
希望の脚のあいだに体を滑り込ませ、左手で軽く水着を上へと持ち上げる。
「んんっ」
股間に水着が食い込み希望が声を漏らすが、
「動かないで」
龍之介は真剣な表情で慎重にカミソリをデリケートな部分の肌にあてがう。
元々体毛が薄い上、電気シェーバーも使っていたのか、はみ出してるヘアは見当たらない。
(なんだ、全然生えてないよ。残念……)
これまで何度もこうした処理をしてきたが、大半がこんな感じなのだ。
(一度くらい、もっとこう、じょりじょりやってみたいのに。希望姉さんが恥ずかしがって真っ赤になるくらい、いっぱい剃りたいのになぁ)
希望が聞いたら本気で怒りそうなフェティッシュな願望を抱いたまま、龍之介は念のためにと恥丘の脇辺りをカミソリで処理していく。
「くっ……んっ……あぁ……」
刃が触れるたびに頭上から降ってくる姉の吐息に、龍之介の若筒は痛みを覚えるほどに勃起する。
(うう、姉さんのココ、柔らかくてすべすべしてる……それに、なんだか水着が食い込んで割れ目が……っ)
綺麗に剃るため、という大義名分の元、龍之介はかなり際どい部分まで触れている。指先に伝わる姉の体温と弾力に、鼻息が荒くなるのを止められない。
浴室に、姉の艶めかしい声と弟の忙しない呼吸音が混ざり合って反響する。
「さ、先程の話の続きだがな」
そんな雰囲気に堪えられなくなったのか、この件については終わりと言ったはずの希望のほうから話を蒸し返してきた。
「お前は今……その……いるのか、女は」
「……は?」
先程の続きと言われたので進路の話だろうと考えていた龍之介は、カミソリを動かす手を止めて顔を上げた。
「なんの話?」
「言っただろう、さっきの続きだ」
「いや、全然続いてないような……」
「うるさい、弟が姉に口答えするな!……で、どうなんだ、いるのか、いないのかっ」
女とは恋人のことだろう、くらいはさすがに理解できる。しかし、どうしてそれが進路と繋がるかはまったくわからない。
「いないよ、恋人なんて」
嘘を吐く必要はないので素直に、正直に答える。
(好きな人たちならいるけれど。三人も)
一生隠し通すであろう想いを胸の中でだけそっと呟く。
「そ、そうか。そうだな、お前はまだ一年生だからな、男女交際など早いぞ、うん!」
一年生は半分大人って言ってたよね、とも思ったが、なぜか嬉しそうな希望の表情に、龍之介はただ黙って愛しい姉を見上げるのだった。
「希望姉さん、僕だけど」
同じ屋根の下で暮らす他の姉たちを気遣い、小声で名乗る。
もっとも、沙月は苦戦していた原稿を夕方に終わらせたばかりで明日の昼までは爆睡だろうし、美容に気を遣う流音はとっくに夢の住人だ。
そもそも浴室と姉たちの部屋はかなり離れているから、よほどの大声を出さない限り聞こえる可能性はまずない。
「き、来たか。入れ」
「えっ。あ、うん」
龍之介が躊躇したのは、脱衣カゴに希望がさっきまで着ていた服が脱ぎ散らかされていたためだ。下着も放り投げられている。
(ってことは……姉さん、今、お風呂場の中で裸……!? でも、僕をここに呼び出したんだから、用事はアレのはずだけど。も、もしかして、背中を流せとか!? 一緒に入ろうとか!?)
期待に胸を高鳴らせたシスコン少年は早速ドアを開けて室内に踏み込む。
「……ああ」
入室した龍之介が複雑な表情を浮かべたのは、過大な夢を裏切られたショックと、ある程度予測していた幸運が同時に訪れたせいだ。
「なんだ、その顔は。突っ立ってないでとっととドアを閉めろ」
そう叱り飛ばす希望はもちろん全裸などではなかったが、
(うわぁ、姉さんの水着、久々に見た……!)
シスコン弟を歓喜させるには充分過ぎるほどの蠱惑的な格好をしていた。
希望の女体を包んでいるのは、現役時代に愛用していた競泳水着だ。洗濯機が使えないため、いつも手洗いしていた水着だからよく覚えている。
「用件は、言わなくともわかるな?」
「う、うん」
「なにを赤くなってるんだ、バカがっ」
そういう希望も耳がほんのり赤い。
(現役の頃と比べて、なんだか色っぽくなってるなぁ)
元オリンピック候補選手の引き締まった女体は現役時に比べて全体的に丸みが加わり、姉大好き男子高校生の脈拍を一気に上昇させる艶を帯びている。
「ぼさっとするな、とっとと始めるぞ」
いつもより明らかに早口な希望が、龍之介に物言う隙を与えずにまくし立ててくる。浴室灯に照らされた頬がうっすら赤い。
(ううん、ほっぺただけじゃなくて、身体中ピンク色になってる……!)
機能性を追求したスイムウェアを身に纏った希望は紅潮した顔を弟から隠すように背けると、
「その……ウチの水泳部のコーチを頼まれて、だな」
赤くなった耳をこちらに向けたまま口を開いた。
「ああ、顧問の先生にずっと頼まれてたって言ってたよね」
希望は現在、部活の顧問は担当していない。が、現役時代の経歴を評価する水泳部の顧問から、ずっと誘われ続けてきたという。
「私の泳ぎはかなり独学が入ってるし、人に教えるのも苦手だからな」
そう言ってずっと固辞し続けてきたそうだが、歳上のベテラン教師の頼みをいつまでも断るわけにもいかず、遂に折れたらしい。
「期間限定の臨時コーチでいいから、と頼まれてしまったこともあるが、他にも理由があってな。……お前、谷口美波って覚えるか?」
「確か、姉さんと同じ大学だった人、だよね」
龍之介が言葉を選びながら答えたのは、希望と美波がただの友人関係でないと知っているからだ。平たく言えば、ライバルという表現が適切だろうか。
「こいつも今、別の高校で教師をしてるんだが、どこで聞きつけたのか、ウチと合同練習をしようと言ってきた」
「ああ……なるほど」
美波は水球、希望は競泳と種目は違うのだが、この二人、現役を引退しても教師として競い合うつもりらしい。
「む。なんだ、その顔は。龍之介のくせに生意気だ」
弟に心情を読まれたのが悔しいらしく、じろりと睨まれた。無論、シスコン少年にとっては愛しい姉の視線はむしろご褒美である。
「ご、ごめん。……じゃあ、姉さんが僕にやらせたいってことはやっぱり……」
「あ、ああ、そうだ。コーチを引き受ける以上、やはり部員たちに手本を見せる必要もあるしな。水着は避けては通れん」
「んー……」
龍之介は改めて姉の水着姿を見る。いや、凝視する。
「だけど姉さん、僕が見たところ、大丈夫そうだよ? 元々姉さんは毛が薄いし」
弟の視線に気づき希望は慌てて股間を両手で隠す。
(あ、恥ずかしがってる。姉さんの羞じらう表情も新鮮で可愛いなぁ)
普段の強気で凛々しい希望ももちろん好きだが、家族にだけときおり見せる、こういった一面が龍之介にはたまらないのだ。希望にとって自分が特別なのだと確認できるのは、この上ない喜びでもある。
「遠目だと問題なく見えるだろうが、至近距離だと、その……結構微妙なんだ。お前だってそれは知ってるはずだ」
ますます肌を紅潮させ、希望が恥ずかしそうに言葉を返す。
「じゃ、じゃあ……うん、久々にアレ、しよっか」
「しようか、じゃない。しろと言ってるんだ、うつけめ」
憎まれ口を叩く姉の頬はまるで熟したトマトのようだった。
(相変わらず、こういうときでも腕まくりすらしないんだな、こいつは)
目の前で「処理」の準備を進める弟を眺めながら、希望は心の中で溜息をつく。
季節は夏へと向かい、気温と湿度は日々上昇を続けてるというのに、龍之介は学校の夏用制服以外では常に長袖を着ている。
(私に気を遣ってるのだろうが、逆効果だとなぜ気づかんのだ、この唐変木めが)
本人は「僕、冷房がダメだから」と言い訳してるが、それが嘘であるのは希望が一番理解している。冷房が苦手なら、どうして長袖のシャツを着用してるくせに下は半ズボンなのか。明らかに不自然だ。
「あ、あの、姉さん、準備できたけど」
「そ、そうか。では……頼む」
シャツに隠された龍之介の右腕から急いで視線を逸らし、風呂椅子に腰かける。
「じゃあ……始めるね」
「ああ、頼む」
希望は目を閉じ、その身を弟に委ねる。
(久々だな、こいつにこれをさせるのは)
これ、とは、全身のむだ毛処理のことだ。
希望は元々毛が薄い体質だが、それでも試合前は少しでも抵抗を減らすため、そしてマナーとして全身を処理している。
「塗るね。冷たいから気をつけて」
「……んっ」
あらかじめ希望が浴室に持ち込んでおいたローションが、龍之介の大きな手のひらでゆっくりと全身に塗り込まれていく。冷たいと言いつつも人肌になってるのは、龍之介があらかじめ手のひらで温めてくれたからだろう。
「ふん、ちゃんとやり方を覚えてたか。……ん……っふ」
体毛が薄いからカミソリではなく脱毛クリームを利用する手もあるが、一度試したところ肌が負けてしまって以来、使っていない。
(最後にしてもらってからもうだいぶ経つせいか、妙にぞくぞくするな……くうぅっ)
目を瞑ったまま、希望は唇をきゅっと結んで平静さを装うが、頬がときおりぴくぴく動くのは、全身を這う弟の手に甘い悦びを感じてるせいだ。
姉を気遣ってるのか、必要以上に優しいタッチでローションを塗り込んでくるのだが、それがまるで愛撫のように二十三歳の女体を喘がせる。
(声が……変な声が漏れる……あああ、龍之介の手が、指がぁ……)
ローションまみれの手がうなじから肩、背中、腕へと移動していく。
「くひっ!」
最も大きな声が出てしまったのは、両腋にたっぷりと塗り込まれたときだ。
(ううう、聞かれた……あんな声をぉ……ああン!)
一度ローションを補充した龍之介の大きな手のひらが再び希望の肌へと近づく。上半身に続き、今度は下半身だ。
「あふっ……ん……ああぁ」
下唇を噛んで声を堪えようとするのだが、弟の手がふくらはぎから太腿へとじわじわと上がってくるたびに肢体が風呂椅子の上で震えてしまう。
(ふ、太腿、太いとか思われてないか? 現役時に比べてむっちりしたとか呆れられてないか?)
龍之介がどんな表情をしてるのか、怖くて目を開けられない。
「姉さん、やっぱり……ここも?」
遠慮がちなその質問がどこを指してるかは、瞼を閉じたままでもわかっている。股間のデリケートゾーンのことだ。
「当たり前だ。そこが……そこが一番大事なのはお前も知ってるだろう。変なことを聞くな、うつけ」
恥ずかしさを押し隠し、「さっさとやれ」と思い切って股を開いてローションを塗りやすいようにしてやる。
「…………ンン」
太腿を這っていた指がゆっくりと、女教師の敏感な領域へと迫る。
いまだに弟以外が触れたことのない処女の柔肌に、温かい指が優しく、気遣うようにローションを塗ってくれる。
「み、見たところ、別に処理は必要ないと思うけど」
「今はよくとも……んぅ……水に浸かったり、泳いだときにはみ出したら……うふぅ……まずいだろうが……アアッ」
Vゾーンのはみ出しを確認するため、龍之介が顔を股間へと寄せてきた。
(そんなに近づけるな、恥ずかしいだろうがっ)
むだ毛の処理をさせておいて恥ずかしいもないものだが、希望にも事情がある。
無論、可能であればこんなことは自分一人で済ませたいところではあるものの、希望は自他共に認める不器用な女だ。物理的な意味で。
初めて自分で剃ってみようとカミソリを購入したところを過保護な弟に見つかり、
「希望姉さんは刃物持ったらダメ!」
と激しく反対されてしまう。
意地っ張りな希望は「平気だ、この程度」と突っぱねるが、シスコン少年は「じゃあ、試しに僕の腕でやってみてよ」と己の右腕を差し出してきたのだ。
バカにするな、とムキになって弟の二の腕にローションを塗り、カミソリを当てたところで、希望の記憶は飛んでいる。
気がついたときには布団に寝かされていて、側には心配そうに姉を見つめる龍之介の姿があった。龍之介の右腕には真新しい包帯があり、それを視界に収めた瞬間、希望はすべてを悟ったのだ。
(あのとき以来、こいつは私に右腕を見せようとしなくなってしまった……)
沙月や流音に聞いたところ、龍之介の二の腕には小さくない傷痕があるらしい。希望に記憶はないが、その原因が己であるのは間違いない。
「やっぱり、姉さんは刃物持っちゃダメ。僕がやるから。いいね?」
傷つけた負い目もあって希望は龍之介のこの申し出を承諾したが、内心は申し訳なさでいっぱいだった。
もっとも、実際のところは希望が考えてることとはいささか異なっている。
龍之介が自分の傷痕を隠してるのは確かに姉が負い目に感じないように、との気遣いだが、むだ毛処理を買って出たのは希望の肌を慮った他にも理由がある。
大好きな姉の肌に堂々と触れられ、そしてデリケートな箇所の処理をする行為は、シスコン少年にしてみればまさに夢のようなものだ。
「は、始めるよ」
その証拠に、龍之介の声は興奮に上擦っている。
「好きに……しろ……んっ」
ただ、同じくらい昂ぶっているせいで希望はそのことに気づかないだけである。
(ああ、全身ぬるぬるの姉さん、すっごく綺麗で色っぽいよ……!)
ローションまみれになった愛しい姉の肌に、龍之介は細心の注意をもって女性用カミソリの刃をあてがう。
まずはうなじから。そして肩や背中のうぶ毛を丁寧に剃っていく。
「あ……ん……ふぁ……ん」
くすぐったいのだろう、刃が肌の上を滑るたびに競泳水着に包まれた姉の身体がぴくぴくと小刻みに震え、男子高校生の心臓を高鳴らせるような艶めかしい声が浴室に響く。
(希望姉さんのこんな声、他の男には聞かせたくない)
龍之介の知る限り、希望に男の影はない。しかし、知らないだけで恋人がいたかもしれない。今も、いるのかもしれない。想像するだけで嫉妬で頭がおかしくなりそうになる。
「お、おい龍之介」
左右の腕にカミソリを這わせているとき、声をかけられた。相変わらず目は閉じているし、頬もうっすらピンク色のままだ。
「お前にだけ教えておくが、私も来年、担任をすることになった」
「えっ、本当? おめでとう、姉さん!」
「まあ、教師としてはこれからが大変だがな。……あっ」
最後の「あっ」は、龍之介が腕を持ち上げたせいだ。それはつまり、上半身の山場、腋の処理に入ることを意味する。
(……なんだ。こっちも綺麗だ)
希望が目を瞑ってるのをいいことに、無防備な腋窩を至近距離で観察するが、白い肌は処理が必要ないほどにすべすべしている。どうやら、以前龍之介がプレゼントした女性用の電気シェーバーを使っているらしい。
(うう。自分で用意したものだけど、でも、なんか悔しい……。恥ずかしいのを必死に堪える姉さんの表情が見たかったのにぃ)
重度のシスコンを患っている少年は残念がるが、それでもよくよく見れば僅かにうぶ毛のようなものもなくはない。そっとカミソリを当てると、敏感な肌を傷つけぬよう、細心の注意をもって刃を滑らせる。
「う……うぅ……そ、それでだ、お、お前もそろそろ進路をどうするかをだな……んっ」
羞恥を誤魔化すように希望が話を続ける。これまで何度もこうした処理を弟にさせてはいるものの、やはり慣れることはないのだろう、閉じた瞼が小刻みに痙攣を繰り返す。
「進路って……僕、まだ一年生だよ?……はい、こっちは終わり。次、反対側ね」
「あ、ああ。……あふン!……い、一年生だろうと……早すぎることはない……ん……そもそもお前の口から将来の話を聞いたためしが……アァ」
ローションで覆われた敏感肌をカミソリが往復するたびに水着女教師の身体がくねり、いつの間にか半開きとなった唇から甘い吐息が漏れる。
(希望姉さん、昔より敏感になってるのかな。凄くびくびくしてるし……声、色っぽすぎてたまらないよ……ぉ)
龍之介の股間はもうずっと勃起状態だ。腰を引いてどうにか膨らみを隠しているが、もしも希望が目を開けたらあっと言う間にバレるだろう。
「お前はまだ実感ないだろうが、高校の三年間などすぐに終わるぞ。それに、高校一年ならばもう大人に片脚突っ込んでるようなもんだ。……あ、こら、そんなにしつこくするな……んぅ……っ」
「ご、ごめん、痛かった?」
「痛くはないが……その、多少、くすぐったい」
瞼を閉じたまま、恥ずかしそうにそう答える希望の表情があまりに可愛くて、龍之介は危うく水着姿の姉を抱き締めたい衝動に駆られてしまった。
「で、でも、やっぱりまだ、将来のことはあんまり考えられないんだ」
見えないのをいいことに、吐息が当たるのではないかと思うほど顔を腋に近づけ、ことさらゆっくりとカミソリを動かし、姉の美しくも淫靡な肌を目と指とで味わう。
(舐めたい……姉さんの腋に顔を埋めて、いっぱい舐め回したい……!)
変態的な欲望を抱きながらも、シスコン弟は名残惜しそうな顔で左右の腋窩の処理を終える。
「じゃあ、今度は脚、剃るね」
「ああ、頼む。……進路が決まってないなら……どうだ、お前、このまま家庭に入ってもいいんだぞ? 無論、大学は卒業させるが」
「家庭に入るって……?」
脛の処理を進めていた龍之介が首を傾げながら希望を見上げる。姉の頬や耳はまたさらに赤みを増していた。
「言葉どおりの意味だ。私はお前が一番よく知ってるように不器用だし、生活能力は皆無に近い」
「沙月お姉ちゃんよりはマシだと思うよ」
「アレと一緒にするな。あっちは放置すれば三日で死ぬが、私は一週間は堪えてみせる」
「あんまり変わらない気もするけど」
苦笑を浮かべつつ、さりげなく姉のふくらはぎや太腿の感触を手で楽しむことは忘れずにカミソリを動かし続ける。現役時代に比べてやや肉付きが良くなり、より女らしさを増した美脚の感触を味わうことももちろん忘れない。
(柔らかいよぉ……姉さんの脚、あったかくてすべすべしててぷにぷにしてて……たまんない……っ)
「大きく違うぞ、バカ。……ただ違うのは、沙月姉さんは自活不可能なダメ人間だが、その分、金は稼いでる」
「確かにお姉ちゃんの本、売れてるもんね」
「だから、いざとなれば誰かお手伝いさんでも雇えば済む問題だ。あの人の世話をするのはお前でなくともいい」
「……」
希望のこの言葉に、龍之介の表情が寂しげに歪む。シスコンにとって姉の世話をすることは負担ではなく、むしろご褒美なのだから。
「その点、私の稼ぎはたいして多くない」
(希望姉さん、なにが言いたいんだろう?)
デリケートゾーン以外の処理をすべて終わらせた龍之介は首を捻る。
「が、お前一人を養う程度は稼げる。……私の言いたいこと、わかるな?」
「え。いや、よくわかんないんだけど」
「それくらいわかれ、バカ者がッ」
突然叱られてしまったが、わからないものはわからないのでどうしようもない。
「……まあ、いい。まだ時間はある。この話はまた次の機会にしよう。今は……こっちが先だからな」
そう言うと希望は瞼を上げ、僅かに濡れた瞳でこちらを見下ろしながらゆっくりと両脚を左右へと開いた。全身にはびっしょりと汗をかき、紺色の水着はそれを吸ってさらにぴったりと肌に張りついている。
汗とローションとで妖しく濡れ光る姉の水着姿にぐびりと生唾を呑み込むと、龍之介はいよいよ最後の処理に取りかかった。
「あ、あまりじろじろ見るな」
「見ないと切っちゃうもん」
恥ずかしがる希望の赤い顔をちらりと見上げて脳内メモリに書き込むと、龍之介は再び姉の股間に目を向けた。
(じっくり堪能したいところだけど、さすがに集中しないとまずいもんね。大好きな希望姉さんの肌を傷つけるわけにはいかないし)
希望の脚のあいだに体を滑り込ませ、左手で軽く水着を上へと持ち上げる。
「んんっ」
股間に水着が食い込み希望が声を漏らすが、
「動かないで」
龍之介は真剣な表情で慎重にカミソリをデリケートな部分の肌にあてがう。
元々体毛が薄い上、電気シェーバーも使っていたのか、はみ出してるヘアは見当たらない。
(なんだ、全然生えてないよ。残念……)
これまで何度もこうした処理をしてきたが、大半がこんな感じなのだ。
(一度くらい、もっとこう、じょりじょりやってみたいのに。希望姉さんが恥ずかしがって真っ赤になるくらい、いっぱい剃りたいのになぁ)
希望が聞いたら本気で怒りそうなフェティッシュな願望を抱いたまま、龍之介は念のためにと恥丘の脇辺りをカミソリで処理していく。
「くっ……んっ……あぁ……」
刃が触れるたびに頭上から降ってくる姉の吐息に、龍之介の若筒は痛みを覚えるほどに勃起する。
(うう、姉さんのココ、柔らかくてすべすべしてる……それに、なんだか水着が食い込んで割れ目が……っ)
綺麗に剃るため、という大義名分の元、龍之介はかなり際どい部分まで触れている。指先に伝わる姉の体温と弾力に、鼻息が荒くなるのを止められない。
浴室に、姉の艶めかしい声と弟の忙しない呼吸音が混ざり合って反響する。
「さ、先程の話の続きだがな」
そんな雰囲気に堪えられなくなったのか、この件については終わりと言ったはずの希望のほうから話を蒸し返してきた。
「お前は今……その……いるのか、女は」
「……は?」
先程の続きと言われたので進路の話だろうと考えていた龍之介は、カミソリを動かす手を止めて顔を上げた。
「なんの話?」
「言っただろう、さっきの続きだ」
「いや、全然続いてないような……」
「うるさい、弟が姉に口答えするな!……で、どうなんだ、いるのか、いないのかっ」
女とは恋人のことだろう、くらいはさすがに理解できる。しかし、どうしてそれが進路と繋がるかはまったくわからない。
「いないよ、恋人なんて」
嘘を吐く必要はないので素直に、正直に答える。
(好きな人たちならいるけれど。三人も)
一生隠し通すであろう想いを胸の中でだけそっと呟く。
「そ、そうか。そうだな、お前はまだ一年生だからな、男女交際など早いぞ、うん!」
一年生は半分大人って言ってたよね、とも思ったが、なぜか嬉しそうな希望の表情に、龍之介はただ黙って愛しい姉を見上げるのだった。
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