ここ数年、毎回ページが足りないと嘆きまくってる青橋ですが、「トリプル押しかけ許嫁」はまさにその代表例でした(次点は「お嬢様フォーシーズンズ」)。

 本編は300ページ強ですが、当初の構想どおりに書いていたら450〜500ページとなってたはず。
 当然、途中で泣く泣くあちこちのシーンをカットしたのですが、貧乏性の私はそれらを再利用しまくっております。
 今回はその中から、最もどーでもいい、エロもない、若葉と理華の対決シーンを公開します。
 ここは当初から担当さんに「なくてもいいんじゃないですか?」と素っ気なく言われていた悲しいシーンです。
 いや、まあ、それはそうなんですけど、こういうところをたまには書いておかないと、若葉も理華もなんか可哀想じゃないですか。

 本当は拓光にもカッコイイ出番があったんですけどねー。


 なおこのシーンは、本編247ページあたりから始まる予定でした。

////////// 1 //////////

 拓光がくららに襲われようとしているその一方、理華と若葉の対決も動きを見せていた。

(睨み合っていても埒が明かないっ、どうせわたしが仕掛けるしかないんだから……こちらから行くッ!)

 このまま時間稼ぎをすれば間もなく日没となり、遠距離攻撃の弓には不利に、つまり理華には有利となる。しかし、そんな消極的な戦法は好きではなかったし、なによりそれでは拓光にいいところを見せるという理華の目的にそぐわない。

(今日こそは拓光にカッコイイ姿を見せつける! そしてもっともっと好きになってもらうんだ!)

 愛刀を握り直し、『加速』を発動させる。
 全身の細胞が沸騰するような感覚のなか、地面を蹴る。
 走り出した瞬間、若葉の放った弓が一直線に理華を襲う。

(くっ、さすが若ちゃん、この距離でもしっかり脚を狙ってきてる!)

 本来なら最も大きな標的である胴か、あるいは急所である頭を狙ったほうが楽なはずだが、怪我の確率が低く、かつ動きを止められる脚部だけに矢が向かってくる。
 次々と襲いかかる弓をリミッター解除された肉体がぎりぎりでかわしていく。着実に間合いは詰まっている。だが、若葉の射出間隔は異様に短く、しかも狙いはどんどんタイトになってくる。
 理華の前進速度が徐々に落ちていく。それだけ若葉の弓が脅威なのだ。

(凄い……こんなに連続して矢を放てるなんて……!)

 あと少し、あとちょっとで必殺の間合いになるのに、その数メートルが遠い。
 筋肉と腱が悲鳴を上げている。しかし、理華は退かない。

(負けられない……負けられないのよっ!)

////////// 2 //////////

(来た……っ!)

 理華が動くと同時に『集中』を発動、そして神速の動きでまずは牽制に二射。

(理華ちゃん、速い!)

 足止めを狙った矢を最小限の動きでかわした理華は、そのまま加速しながら接近してくる。
 相手の移動速度を考慮して、再び発射。連続で三本の矢を、微妙にズラして放つ。
 一本目は軽く避けられ、二本目で前進がやや鈍る。

(これは中る……えっ!?)

 確実に捉えたと自信のあった三本目は、しかし、電光石火のなぎなたによって薙ぎ払われた。矢が真っ二つになって宙を舞う。

(凄い……理華ちゃん、凄いよっ)

 間合いを一気に詰められた。もう一度ダッシュされたら、今度は完全になぎなたの距離だ。それはすなわち、若葉の負けを意味する。

(でも……これなら!)

 普段の若葉であればここで慌てふためくところだが、極限まで研ぎ澄まされた集中力がそれを露呈させない。
 子供の頃に仕込まれ、今もなお修練を続けてきた実戦用の技が自然に出てくる。あるいはその身に流れる祖先の血がそうさせているのかもしれない。
 狙いをアバウトにする代わりに、射出速度を上げる。連続で弓を放ち、理華の接近を阻止する。

(さすがね理華ちゃん。でも、あたしも負けられないの! 拓光くんに捨てられたら、あたし、もう生きていけないんだもん!)

 視線恐怖症で露出癖のあるこんな自分でもいいと言ってくれる男は、きっと二度と現れない。だから、たとえ教え子が相手であろうとも勝たなくてはならない。

(こんなあたしでもいいって言ってくれた拓光くんのためにも!)

 矢は残り少ない。理華が再び距離をとれば若葉の負けは濃厚になる。だが若葉は射るのをやめないし、理華も下がらない。そういう勝負だからだ。

(見てて拓光くん、あたし勝つから! 拓光くんに相応しいお嫁さんになるからね!)

 覚悟を決めたのだろう、理華が凄まじい勢いで突っ込んできた。腹をくくり、最後の勝負に出たようだ。

(さっきよりも速い……!!)

 かわすことを諦め、飛来する矢をすべてなぎなたで叩き落としながら理華が一気に詰め寄ってきた。あと一歩で理華の間合いとなる。

(拓光くん、あたしに力を!)

 すべての想いを込め、若葉は最後の一本を放った。

////////// 3 //////////

(これは無理……!)

 あと一歩、いや半歩でなぎなたを振るえる。そんな間合いまで踏み込めたが、若葉が最後に放った乾坤一擲の矢が真っ直ぐ理華の心臓目がけて飛んできた。
 なぎなたで防御はできるかもしれない。そうすれば矢を使い果たした若葉の負けで、自動的に理華の勝ちだ。
 しかし、最後まで若葉の間合いを崩せなかったという意味では理華の負けに等しい。

(それじゃダメ!)

 これが実戦であれば違った選択をしただろうが、理華は敢えてさらに踏み込み、回避はせずに一直線になぎなたを突く。なぎなたという得物の長さを最大限に活かした渾身の技だ。
 切先に手応えが伝わると同時に、理華の左胸にも強い衝撃が襲う。

「ぐうぅっ!」
「きゃん!」

 それぞれの意地と誇りをかけた一撃は、互いの心臓をしっかりと捉えていた。完全な相打ちだった。

「引き分け、かな、これ」
「……だね。えへへ」
「あはは、引き分けか……うん、そうだね、引き分けだ」

 どちらからともなく笑い声が上がる。
 張り詰めていた空気が一瞬にして和らぎ、心地よい疲労感と満足感が理華たちを包む。

(勝てなかったけど、まあいいか。拓光にはいいところ見せられたと思うし)

 拓光が観戦していた茶室に目を向けるが、遠いのと、日没間近のせいでよく見えない。

「ところで若ちゃん……いくらなんでも矢、使い過ぎだよ」
「実家から持てるだけ持ってきたんだけど、まさか全部使うとは思わなかったよ」
「これ、全部拾うんだからね?」
「もちろん、理華ちゃんも手伝ってくれるよね? もうこんなに暗くなっちゃったから、一人だと大変だし」
「え……わたしも拾うの?」
「矢って高いんだよ? 理華ちゃん、散々へし折ってくれたよね? あたし、給料安いのに。……イヤならいいよ、拓光くんに手伝ってもらうから」
「わ、わかったわよ、拾うわよ、拾えばいいんでしょ!……若ちゃん、どうしたの?」

 若葉の顔に不審げなものを感じたので尋ねる。

「あのね、あたし今、『集中』の反動で視線に敏感になってるの」
「あ、ごめん」

 慌てて若葉から目を逸らすが、

「違うの。理華ちゃんの視線じゃないの」
「じゃ、拓光の? それともくらら?」
「拓光くんの視線ならむしろ嬉しいんだけど……違うの。さっきまで感じていた拓光くんの視線が、今、消えちゃったの!」


(本編259ページに続く)