フリーライターの俺、柚木草平は、雑誌への寄稿の傍ら事件の調査も行なう私立探偵。元刑事という人脈を活かし、元上司の吉島冴子から未解決の事件を回してもらっている。
今回俺に寄せられたのは、女子大生轢き逃げ事件。車種も年式も判別されたのに、犯人も車も発見されないという。
さっそく被害者の姉・香絵を訪ねた俺、柚木草平は、人並みはずれた香絵の美貌に驚きつつも、調査を約束する。
事件関係者は美女ばかりで、事件の謎とともに俺を深く悩ませる。38歳の “青春”を描く、私立探偵ミステリ《柚木草平シリーズ》第1弾。


 ずっと前から(最初の刊行時です)その魅力的なタイトルで気になっていた作品ですが、ようやく読めました。
 ですが、私の期待というか予想は見事なまでに裏切られました。それも最初の1ページか2ページ読んですぐに。
「あれ……青春ミステリじゃない……!?」

 だって「彼女はたぶん魔法を使う」ですよ? 東京創元社ですよ? この爽やかな表紙イラストですよ?
 加納朋子さんとか北村薫さんとか宮部みゆきさんとか連想した私が間違ってますか?……いや、冷静になって考えてみれば間違ってんですけどね。

 ミステリはミステリですが、ハードボイルドでした。しかも上質の。
 ハードボイルドもどきのミステリもどきは山のように売られてますが、この本は大丈夫です。少なくともハードボイルドであることは間違いありません。面白いです。

 本格ミステリが好きな、つまりは性根のねじ曲がったニッチな読者にはトリックそのものは早い段階で見抜けると思いますが、作者はそんなの先刻承知で書いてます。
 メインはあくまでも主人公である柚木草平と、彼の周りになぜか次々と現れる魅力的な美女が紡ぎ出すウィットに富んだ会話と、計算された文章が醸し出す雰囲気を楽しむことです。ミステリの伏線より会話の伏線のほうが多いと思うくらいです(笑)。

 もちろん続刊も読みますよ。あとでbk1に注文します(近所の書店にはなかったのです)。

 ここで終わると普通なので、エロ作家らしく二つほど下ネタ?を。

 大事な人のために自らの身体を金持ちのジジイに差し出す美女というシチュエーションに燃えてしまったのは秘密です。
「ほれほれ、嫌だと言っておっても身体は正直じゃぞ?」
「ち、違うの……ああっ、こんなのイヤなのに、身体が……っ!」
 ……最高ですね。燃えます。もちろんフィクション限定。リアルだったら反吐が出ます。
 言うまでもないですが、こんなシーンは本作品には一切出てきませんのであしからず。私の脳内妄想です。

 ハードボイルドというと、つい思い出しちゃう作品があります。しかも美少女文庫。
 そう……これです。

メイド喫茶猫の隠れ家
黄支亮(著)・みさくらなんこつ(イラスト)

読んだ人はわかるはず。……あれ、この作品でしたよね、あのハードボイルド少女が登場するのって。違いましたっけ?