ゲームのシナリオだけだと疲れるので、ちょいとお遊び。
本当は別の新企画をちゃっちゃと考えなくちゃいけないんですが、人間、そう簡単には頭を切り換えられません。
なもんで、リフレッシュ&ストレス発散を兼ねてちょちょいと書いてみました、「彼女は生徒会長!」幻のプロローグ。

……30分くらいでここまで書きましたけど、やっぱり楽しいなぁ。
この続きを書くことは当分なさそうですが。他の仕事の〆切迫ってますしね。
プロローグ

 暦の上ではそろそろ暑さも和らいでくるはずの八月中旬、神田宗一は額に大粒の汗を浮かべて山道を歩いていた。背中には二人分の荷物が入ったバッグが容赦なく宗一の体力を奪っていく。両手には大きめのトランクが握られている。

「暑いわね。喉がからからだわ」

 手荷物は小さなハンドバッグ一つだけという少女が、持っていたペットボトルからお茶をごくごくと飲む。

「あ、キミも飲む?」

 疲労で口を開くのも億劫になっていた宗一の目の前にペットボトルが差し出された。が、宗一はそれを無視して歩き続ける。宗一なりの抗議行動だった。

「なによ、その態度っ。可愛くないわね」

 頬を膨らませた表情すら魅力的な少女の名は祖父江渚。宗一と同じ高校に通う三年生で、生徒会長でもある。

「それより、いつになったら着くんですか、その合宿所は」
「あと少しよ。ほら、そこの道を曲がったら数分で着くわよ。……合宿所じゃなくて、ウチの別荘っ。イヤミったらしく間違えるな、コラ」

 渚は軽く宗一の頭をこづいてから、

「ほら、トランク、よこしなって。自分の荷物くらい持つわよ。これじゃまるで、後輩に無理矢理荷物持ちさせてるようじゃないの」
「結構です。先輩の荷物を運ぶのは後輩の仕事ですから」
「う……ホントに可愛くないなぁ、キミ。だいたいね、二人きりのときまで敬語使うのはやめてって言ってるでしょ? それと、先輩じゃなくて、な・ぎ・さ」
「今は学校行事の最中ですから」

 宗一はあくまでも素っ気ない。

「だーかーらー、あれはあくまでもキミを連れ出すための口実だったんだって! いいじゃない、高校最後の夏休みを恋人と過ごしたかったんだから!」
「それなら素直に言えばよかったんです。なんでわざわざあんな嘘ついて、生徒会のみんなを巻き込んだりするんですっ」
「そのほうが面白いじゃないの! キミね、いつまで怒ってるつもり? あたしの夫になるのに、こんなことでいちいち腹立ててたら早死にするわよ!? あたしより先に死ぬなんて許さないんだから!」

 ことの発端は、二学期早々にある文化祭の準備を祖父江家の別荘でしようと渚が言い出したことだった。生徒会副会長である宗一だけでなく、他の役員全員で二泊三日の合宿、という計画だったのだ。

「えー、お兄ちゃん、出掛けるのー」
「私たちも連れてってよー」

 最後までぶつぶつ言っていた双子の義妹を振り切るようにして待ち合わせ場所に来た宗一を待っていたのは、真っ白なワンピース姿の渚一人きりだった。

「他の連中は急用ができたから欠席だって」
「……全員が、ですか」
「うん。全員」

 悪びれず答える渚に背を向けた瞬間、宗一は思い切り襟首を引っ張られた。

「さ、行くわよ。電車、そろそろ来ちゃうから」

(なんであのとき、強引にでも帰らなかったかな、僕は)

 さっきから何度も自問自答しているが、

(そんなことできてたら、最初からこんな事態にはなってないか)

 結局、ため息をつくことしかできない宗一であった。

「あ、ほら、あそこ。あれがウチの別荘よ。悪くないでしょ?」

 渚の示す先には、そのままペンションとして使えそうな瀟洒な建物があった。
 全国にチェーン店を展開しているドラッグストア・ソブエのオーナーに相応しい別荘だと宗一は思った。改めて、前方を歩いている先輩がお嬢様なのだと思い知らされる。少なくとも、黙っていれば間違いなくお嬢様だ。
 渚は持ってきていた合い鍵を使い別荘に入っていく。宗一もそのあとに続く。

(ああ……本当に僕、先輩と二人きりでここに泊まるのか……)

 嬉しくないとは言わないが、なんだか嫌な予感もする。渚と知り合って一年以上経つが、この美しくも凶悪な歳上の少女と一緒に行動してなんのアクシデントもなかったことなど一度もなかったのだ。

(しあさって……無事にここから帰れるといいなぁ……)

 そんなことを思っていると、

「ほら、さっさとドア閉めてこっちに来なさい。クーラー効かなくなるでしょっ」

 ソファに腰掛けて、魅力的な脚を大胆に組んだ渚に手招きされた。どうやら、入ってすぐのところに応接セットがあるらしい。

「はいはい……」

 もう逆らうのも面倒になって、宗一は言われるままに渚の隣に腰を下ろした。