最新作「僕には調教志願(エロエロぐいぐい)なエルフ先輩がいます」のヒロインであるハイエルフ、ローネの名字は「ゲラルディーニ」です。少なくともローネは冒頭でそう名乗ってます。

 実はこの名字を私が使うのは二度目だったりします。初出は「僕とエルフメイド姉妹の三人暮らし」の主人公、ティトの幼なじみである、ジューリア・ゲラルディーニです。
 ティトの元婚約者で、面倒見のいい兄貴分(姉貴分じゃないところに注目)ってキャラですが、まあ、普通に脇役です。セリフもなく、手紙の遣り取りで出てくるのみ。

 ジューリアは名家に生まれた人間で、異世界の住人。
 一方のローネは、その異世界から留学してきたハイエルフ。
 両者にどんな繋がりがあるのかを、文庫換算で7ページほどのショートショートで書き下ろしました。

 このリンク、企画の一番最初の頃からやろうと思ってたんですよねー。なので、こうして形にできて満足です。作者だけが一人で楽しいやつ。

 なお、ネタバレ要素もありますんで、できれば両方読んでからのほうがよろしいですよ、と忠告はしておきます。というか、読んでないと全然意味わからないかも?

 楽しんでもらえたら、幸いです。
 久々にティト、フィカ、リーザを書けて楽しかったです。

『ローネ・ゲラルディーニ』


「ローネの故郷の人たちって、どんなふうに生活してるの?」
「山や森の中で、日々、だらだらと生きてるわね」
「……だらだら?」
「ええ、だらだら」
 学校からの帰り道、いつものように二人で聞山を登ってるとき、何の気なしに尋ねた質問に対するローネの答えに、武蔵はどう反応すべきか悩んだ。
「別に冗談でも謙遜でもなんでもなく、事実よ。もちろん、生きていくための最低限の仕事はしてるけど、基本、だらだら。惰性で日々を過ごしてるのが多いわね」
 ローネの暮らしてた土地は衣食住に恵まれた平和な土地にあり、のんびりと時間が流れていたという。
「ただでさえ時間がたっぷりある私たちハイエルフがそんな環境で生活した場合、だいたい二通りに分かれるわ。特に目的もなく、なんとなく毎日を過ごすってパターンが大部分ね」
「残りの少数派の代表がローネってわけですか」
「代表ってほどじゃないけれど……ま、そうね。暇が嫌いな一部のエルフが渋々、もしくは嬉々として一族のために動いてるって感じかしら。取り敢えず、やることがあると退屈はしないから」
 だから、門を使ってわざわざ異世界まで行くようなエルフは、相当な変わり者らしい。
(ローネが変わり者ってのは、凄く納得できるな、うん)
「きみ、今、凄く失礼なこと考えてたでしょ。……そうそう、私のゲラルディーニって名字だけど、正確にはこれ、うちの家名じゃないのよね」
「えっ!」
「一族が外部と接触するときに用いる、まあ、芸名とか、そんな感じの名前ね。初めて会ったときに名字じゃなくて名前で呼んでって頼んだのは、自分でもあまり馴染みがなかったからって理由もちょっとはあったかな。今はもう慣れたけど」
『先輩はやめて、ローネって呼んで。名字だと堅苦しいし』
 そのときのローネのセリフが脳裏に甦る。
「ちなみにこの名前、交流のある人間から許諾をもらってるの」
「え? なんのために?」
「武蔵やこっちの世界の人間には関係ないけど、あっちだと力のある家の名前は便利だから。そういった後ろ盾があるってわかると、途端に態度変える連中もいるからねー」
「あー、なんとなくわかります。スケールは全然違いますけど、ここらへんでも地元の名士とかの名字が出てくると、お、ってなりますからね」
「そうそう、そんな感じ。交易するときなんか便利なのよ。世間知らずのエルフだろって、ふっかけられたりしないで済むから。……きみになら、ぶっかけられてもかまわないけど?」
「さらっと下ネタ混ぜるのやめてください」
 にやにやと笑う美しい恋人に、思わずため息が出てしまう。
「ところで、名前を使わせてる人間にはなにかメリットあるんですか?」
「いくつかあるけれど……エルフと繋がりがあるってのは、一部の者にとっては、箔が付くのよ。美しく、気難しい森の妖精と交流があるってだけで、一目置かれたりするみたい」
「あー、それもなんとなくわかります」
「特に最近、ゲラルディーニ家はエルフと関わりを深めてるようだしね。正式に商売上のパートナーになったとかなんとか」
 ふむふむ、と頷いていた武蔵は、ここで素朴な疑問を抱いた。
「じゃあ、ローネの本当の名字は?」
「秘密」
「え、なんで。なにか理由が?」
「ううん、なんにも。そんなに珍しい名字でもないし、なにか裏があるわけでもなし」
「だったら教えてくれてもいいじゃないですか」
 好きな人の本当の名前を知りたい武蔵は食い下がる。
「ふふ、武蔵が知りたがれば知るたがるほど、私は内緒にしたくなるって、わからない?」
 美しすぎるエルフが、青い瞳を細めて微笑む。
(あ。ローネがこの顔になったときは、もうなに言ってもダメだ)
 恋人の性格をよく知る武蔵は、今日のところは聞き出すのを諦める。
「あれ、もういいの? 追及しないの? いい言い訳になったと、嬉々として憐れなエルフを拘束して、尋問して、拷問しないの?」
「しませんよ!」
「縛って鞭で叩いて、泣いて許しを請う私がホントの名字を白状しても、そのまま拷問を続けるのよね。そして欲望のままに、尋問と称してドワーフ印の凶悪なお仕置き棒で憐れなハイエルフを辱めるんでしょう? 私、知ってるんだから」
 ふんすふんすと、絶世の美女が鼻息を荒くする。
 これがローネの平常運転とわかってる武蔵は、敢えて反応しない。下手に応じると、どんどん泥沼にはまると知ってるからだ。
 そしてローネも、深追いはしてこない。いくらでも武蔵をからかったり追い込むチャンスがあると理解してるためだ。
「ま、別に知らないままでも問題はないしね。どうせ、近々三つ目の名字が増えるだろうし」
「え? 他にもまだあるんですか?」
 さすが異世界の別種族、こちらの常識とは違う点も多いんだな、と驚く武蔵に、ローネはこの日一番の笑みを浮かべ、長い耳を動かしながら言った。
「ええ。次は丸田って名字にね。なんなら、今すぐでもいいけれど? ね、丸田武蔵クン?」


 ローネの暮らしていた里とは異なる、別の土地。そこに住んでいる少年は、結婚の決まった幼なじみ、ジューリアから届いた手紙を読んでいた。自分宛の手紙なのにすでに開封されてた点については、もはや気にしない。気にするだけ無駄だからだ。
「ティト様、略奪愛はオススメしない、よ?」
「他人に奪われた元婚約者からの手紙を読んでにやにやするとは、ティト様はずいぶんと残念な趣味の持ち主ですね」
 自分を左右から挟む込んでいた二人のエルフ、フィカとリーザを無視して、ティトは手紙を読み進める。
「無視はダメ」
「ご主人様の分際で私たちを無視とは、いい度胸でございます」
「無視じゃないってば。二人は内容知ってるだろうけど、僕は今、初めて読んでるんだから」
 勝手に先に読んでいたフィカとリーザがいつもと変わらぬ態度だったので、手紙の内容に関しては特に問題がないとわかっていたが、それでもティトは急いで見覚えのある文字を目で追う。
(なるほど。ジューリアの実家、ゲラルディーニ家がやってる代理店経由での売上は好調、と。最近、新規の土地から大量発注が入ったから、追加でモナを送って欲しい、か)
 ティトは手紙から顔を上げ、さらに身体を密着させてきた二人のメイドに在庫状況を尋ねる。
「わたしたちメイドが精魂込めて作ったモナをエサに、人妻となる昔の女とよりを戻そうとか、坊ちゃま、鬼畜」
「男は人妻に弱いとは聞きますが、どうやらティト様も例外ではなかったようですね」
「誤解だよっ! というか、明らかに全部わかってて僕をからかってるよね!?」
 愛しい双子のエルフメイドたちはくすくす笑いながら、ティトに頬ずりをしたり、その大きな乳房を押しつけてくる。金と銀の前髪越しに見える目が、実に楽しげだ。
「だけどティト様は大事なこと、忘れてる。わたしとリーザも実質人妻、だから」
「どこかの物好きなご主人様にお金で買われ、メイド妻にされた健気で可愛いエルフの双子、忘れたとか言ったら、承知しませんよ? お仕置きしちゃいますから。具体的には、今から明日の朝まで、たっぷりいじ可愛がっちゃいますから」
 なにか言い返そうとしたティトだったが、声が出なかった。フィカとリーザに交互にキスをされ、口を封じられたせいだ。
「昔の女より、今、目の前にいる女がお得だよ、ティト様。ちゅっ」
「姉様の言うとおりです。あなたは損得勘定がお得意なんですから、どっちを選ぶかなど、考える必要ありませんよね? そもそも、迷ったりしたら許しませんし。ちゅっ」
 ティトが口を開こうとするたびに柔らかく、しっとりとした唇で塞がれる。
 この世で最も心地よく、幸せな口封じだった。