少し前にTwitterで行った美少女文庫50冊到達記念企画で、見事に1位に選ばれたヒロイン、針山桐葉のショートショートを書き下ろしました。

決勝

 文庫換算で数ページ程度、お仕事の合間の息抜きに書こうと考えてたんですが、なぜか12ページ相当に……。いつか、同人誌に収録しようとかいう下心もあったせいですが。
 あとこいつら、セリフが勝手に増えてしまうんですよねぇ。

 楽しんでもらえたら嬉しいです。

ツンツンメイドはエロエロですツンツンメイドはエロエロです
青橋由高、有末つかさ
表紙(仮)ツンツンメイドはデレデレです(18禁)
青橋由高、有末つかさ



「アンケート一位感謝記念書き下ろしSS」


 それは、クリスマスを目前にした十二月のとある休日のことだった。
「ゲームをするわよ、ご主人様」
「ああ、わかった」
 幼なじみであり恋人でありメイドである桐葉の突然の申し出を、栄春は冷静に受け止めた。先日、栄春が僅差で勝利したばかりだったので、この負けず嫌いの少女がすぐに再戦を挑んでくるだろうと予測してたからだ。
「ずいぶん冷静ね。そこは驚き、おののき、脅えて失禁するべきじゃないかしら?」
「ガキの頃からしょっちゅうやってる勝負で、そこまで恐怖するわけないだろが」
「虚勢を張らなくていいのよ? 張るのは股間のテントだけでいいのよ? 大丈夫、あなたのお漏らしの後始末くらいはしてあげるから。ご主人様の介護の予行練習になるしね」
「何十年先の話だ!」
「あら、私に介護させる気ではいるのね。いまだに隷属契約書……いえ、婚姻届にサインしないヘタレのくせに、将来も私が側にいると考えられるそのおめでたいおつむに感心するわ」
「隷属って、どっちがどっちに!?」
「表面上はメイドである私があなたに。でも実際はあなたが私に。当然でしょ? 栄春の分際でなに、人間同士のような、対等な契約を高望みしてるの? 生意気よ」
「真顔で言いやがったこいつ! 悪魔か!」
「サインする点を否定しないことだけは評価してあげる。それと、私は小悪魔よ。そこは訂正してちょうだい」
「いいから、話進めろっての」
「生意気なご主人様ね、まったく。いいわ、説明してあげる」
 やれやれ、と大袈裟に肩をすくめるポーズをする桐葉は、お馴染みの露出過多エプロンドレスを着用している。栄春とすれば大歓迎なのだが、このメイド服に目が眩んであれこれ失敗も重ねてるため、警戒を怠ると大変な目に遭う。
「勝負は、バッファローゲームよ。男が人差し指を頭の横で立て、牛のように女の胸に突進して押し倒す野蛮で卑猥で有罪なゲームね」
「胸に突進する真似をして、指で乳首を探り当てるゲームだろ!? なんで途中から犯罪になってんだよ!?」
「あら、さすがエロの権化ね、よく知ってるじゃない。もしかしてバッファロー童貞じゃないの? 私以外の女に突進して押し倒したの? 死にたいの?」
 桐葉の瞳に危険な光が宿る。
「知識しかない! やったことなんてあるわけがない! 俺とこんな楽しげなゲームしてくれる女がいるとでも思うのか!?」
 自分の言葉にちょっと傷つきつつ弁明する。
「それもそうね。あなたのような存在に好き好んで接触したがる生物なんて、地球上探しても私くらいのものだし。この奇跡の出会いに感謝なさい、ご主人様」
「地球レベルで貶された上で感謝まで要求される俺って……」
「まさか、いつか大学のコンパとかで合法的に乳首を凌辱しようとか考えてたのかしら? これだから童貞は」
「考えてないし! 童貞でもないし!」
「バッファロー童貞なのは事実でしょ? いいわ、この桐葉様が特別に、ご主人様の童貞を奪ってあげる。なお、チャンスは三回まで、罰ゲームはこれの支払いよ」
 突然ゲームの説明に戻った桐葉が、一枚の紙を差し出してきた。予約票という文字と、ゼロが四つ並んだ金額が記されている。
「予約したあとでちょっとしたアクシデントが発生してね、財政がピンチなの」
 元々の予約票をコピーしたものらしく、中身などの情報はすべて黒いペンで塗り潰されていた。金額もそうだが、見た目の物々しさもあり、かなりインパクトがある。
「おい、これはさすがになかなかの金額だぞ? あと、なにを予約したんだいったい」
 桐葉とのゲームでこういったものを罰ゲームにしたことはほとんどないため、栄春は訝しむ。かつて、通帳ごと奪われたことはあったがあれとはまた事情が異なる。
「それは秘密。だからサービスとして、今日はノーブラなの。二重の意味でサービスでしょ?」
 桐葉はたわわな乳房を両手で持ち上げ、ゆさゆさと揺らす。
「くっ、そ、そのような色仕掛けに屈する俺だと思うか!?」
「心の底から思ってるわ」
「そのとおりだちきしょーめ! さあ、始めるぞ!」
「あなたのそういうところ、好きよ。操りやすくて」
 桐葉は勝利を確信してるのか、余裕の笑みを浮かべる。
「ふふふ、確かに俺はこのゲームは初めてだ。だが、万が一の奇跡を信じて、密かにイメトレはしてたのだ!」
「うわ、キモい」
「ちなみに、イメージしてた相手はお前だ」
「うわ、エモい。濡れる。乳首、勃起しちゃう。……はっ! まさかそれが狙い!? さすがご主人様、エロに関しては策士ね」
「ちゃうわ! いいから始めるぞ! 一回目、行きまーす!」
 頭の横に角代わりの指を立て、栄春は桐葉の胸に向かって頭から突進する。
「お前の乳首はここだッ」
 むにゅん、と指先に極上の感触が伝わってきた。
「はい、ハズレ。惜しかったわね」
「むむ、さすがに一回目からは難しかったか。でも、桐葉の乳首と乳首の間隔はこれで合ってるはずだから、あとは狙う位置の調整だけだな」
「さらりと凄いこと言ったわね、今」
「ふふん、お前の身体のことはだいたいは把握してるからな」
「そうよね、あなた、危険日にはしっかりゴム着けたり、外出しするものね」
「なぜそこで忌々しそうな顔になる。逆だろ」
「私の子宮はいつでも歓迎なのだけど」
「お、俺がちゃんと就職してから、ということで、その」
「意気地なし。……さ、二回目よ」
 セリフとは裏腹に、ちょっと嬉しそうな表情を浮かべたメイドに向かって再び頭から突っ込む。
(くくく、一回目に指に伝わった感触から、おっぱいのどこを突いたかはわかった! あとは微調整するのみ! 伊達にお前のおっぱいを揉みまくってねえぜ! この勝負、もらった!)
 先程と同じ指の間隔のまま、微妙に上下角を修正して桐葉の胸に飛び込む。
「ン……ッ」
 左右の指先に伝わるゴムのような感触と、桐葉の押し殺したような声に、栄春は勝ちを確信した。
(さあ、言え、バッファローと言え!)
 このゲームで乳首を突かれた者は「バッファロー」と宣言するのがルールなのだ。
 だが、桐葉の口から出たのは、
「ニア、よ。ニア・バッファロー。お、惜しかったわね」
 という言葉だった。
「いやいやいや、惜しくないだろ、ばっちりだったろ、今の!?」
「あなたがそう思うならそうなんでしょうね。あなたの中ではね。さ、次がラストよ」
「なに誤魔化してくれちゃってんの。俺が桐葉の乳首の感触を間違うとでも!? だいたいお前、思い切り喘いでたじゃんか! 今だって顔、赤いし!」
「さ、次がラストよ」
 栄春の抗議を無視して、桐葉が三回目を要求する。しかし、微妙に栄春から視線が逸らされてる。
(こいつ、なに考えてんだ?)
 負けず嫌いだが、勝負に対するプライドも高い桐葉がこういった不正をしたということは、なにかしら理由があるはずだ。
(そんなに俺に金を出させたいのか? 確かに、結構なお値段だったしな)
 納得できぬまま、栄春は最後の突進をする。先程と同じ指の間隔、角度だ。
(よし、完璧に捉えた! 俺の勝ちだ!)
「ンンン……!」
 指先に感じる、よく知る弾力と、恋人の甘い声に再び勝利を確信する。が、念には念を入れ、そのままぐりぐりと指を動かし、言い逃れが出来ぬようにメイド服の上から乳首を転がす。
「あっ、ちょ、ちょっと待ちなさいご主人様! ストップ!」
 慌てたような声に力を得た栄春は親指も追加し、つんと尖った乳首をつまみ、優しく愛撫する。
「くっ……あっ、あっ、ダメ……やぁ……あっ、んん……んんんん……ッ」
 びくっ、びくくっ、と桐葉の女体が震えたのがわかった。
「くくっ、どうだ、ここまで反応すれば、さすがに言い訳できないだろ? さあ言うのだ、バッファローと!」
「ざ、残念ね、そこは私の……んっ……お、おいなりさんよ」
「残念なのは、それで誤魔化せると思うお前だッ! うりうりうりっ!」
「アアッ! ちょっ、あっ、くっ、くふぅ!」
「ほれ、言え、桐葉」
「…………バッファロー」
 頬を紅潮させたメイドが、悔しげに、小さな声で負けを認めた瞬間だった。


「これ、普通にセクハラ案件よ。わかってるの?」
「イカサマしたやつに言われたくはない」
「ご主人様のせいでびんびんに勃っちゃったじゃないの」
 桐葉の言うとおり、確かに左右の乳首がメイド服の上からでもわかるくらいに浮いていた。生で見るのとはまた異なる艶めかしさに、栄春の股間も勃ち始めてしまう。
「こんなに勃たせてどうするつもり? ピアスでも着けたいのかしら? 鬼畜ね」
「なぜにそうなる!?」
「勃たせたほうが穴を開けやすいかと思って。よく知らないけど」
「俺も知らねえよ!」
「別に、あなたがそうしたいならピアスしてもいいけれど」
「そっちの趣味はねぇよ! 俺、痛々しいのとか苦手だし!」
「もうあなたには前と後ろの処女穴も開けられてるから、一つ二つ増えてもそう変わらないかもだけど」
「人の話を聞け!」
「ご主人様は人未満だから聞く必要はないわね」
「おい」
「……悪かったわ。ご主人様の勝ちよ。それはもう見事な完勝だったわ。私の乳の形状をここまで把握されてるとはね。さすがエロご主人様、感服よ」
「唇を尖らせながら言われてもなぁ。この負けず嫌いめ」
「股間を尖らせてる鬼畜に言われたくないわ」
 負けが悔しいのか、普段に比べて毒舌が若干弱い。
「なにを買ったかは知らんが、これ、俺からのクリスマスプレゼントってことにしてもいいぞ?」
 渡された予約票を指さしながら提案する。自分でも甘いと思うが、惚れた弱みである。
「いいの? 私、こういうときは遠慮しない女よ?」
「お前が遠慮したことなんてあったか?……バイトしてるから、大丈夫だ」
「なにか買う予定だったんじゃないの? エロいやつとかエロいやつとかエロいやつとか」
「ないとは言わんが、元々お前へのクリスマスプレゼントが目的だったから、別にかまわん」
「ありがとう、栄春。お礼に、今日はたっぷり尽くしてあげる」
 この日のご奉仕は、いつも以上に甘く、エロかった。


 桐葉の財政事情が悪化した理由は、後日、判明した。栄春のために、クリスマスプレゼントを買ってくれたからだった。
「予定してた予算を大幅に上回ってたんだけど、あなたに似合うと思ったからつい、ね」
 クリスマスには少し早いが、寒くなってきたし、せっかくだからと早めにプレゼントしてくれたのは、冬物のコートだった。
「そういうことなら、言ってくれればいいのに」
「あなたからお金を巻き上げることに意味があるの」
「可愛い笑顔でなに言ってんだお前」
「そんな正直なこと言わないで。濡れちゃうから」
「可愛い笑顔でなに言ってんだお前」
 呆れつつ、受け取ったばかりのコートを着てみる。軽いのに温かい。サイズもぴったりだった。怖くて値段は聞けなかったが、あるいは、先日栄春が立て替えた代金よりもずっと高いかもしれない。
「似合うわよ。全裸の上から着れば、もっと完璧ね」
「お前はどこまで俺を変態扱いするんだ」
「大丈夫、私はもう諦めてるから」
「俺が変態であることを前提として話を進めるなよっ」
「そこは譲れないわ。……でも、ホントに似合ってるわよ」
「ありがとな。そろそろ新しいコート買わなくちゃって思ってたところだったから、余計に嬉しいよ」
「それもあって早めに渡したのよ。ご主人様のファッションセンスは限りなくゼロに近いから、妙なの買っちゃう前にって」
「ファッションに疎いのは認めるが、そんなに酷いか?」
「そうね、超新星背景ニュートリノを観測するために改修されたスーパーカミオカンデならなんとか捉えられるかもってレベルかしら」
「また素粒子レベルで罵られた!?」
「素粒子を知ってることに驚くわ」
「いや、そのネタはもうやったから」
「ちっ」
「舌打ちはやめろや。……んで、俺が立て替えたあれって、結局なんだったんだ?」
「新しいメイド服。届いたら見せてあげるから楽しみに待ってなさい」
「マジですか?」
「マジですよ。ゲス人様の好みに合わせて、ちゃんと露出高いやつにしたから安心して」
「それは嬉しいけど、呼び名! 呼び名!」
「あ、ごめんなさい、ゲス」
「悪化してる!」
 こんな頭の悪すぎる会話の三十分後、このバカップルは「全裸コートのご主人様にご奉仕するメイド」という新たなプレイを開拓するのだが、それを知るのは部屋の片隅で丸まっていたハリネズミのシュンだけだった。(終)