表紙サンプルあねみこ!(18禁)
青橋由高(著)・稍日向(イラスト)
青橋商店
128ページ、文庫サイズ、カラーカバー付き、モノクロイラスト3枚
会場頒布価格は1000円、委託は1300円(税別)
委託……とらのあなメロンブックスオータムリーフDMM
軸中心派
神からの言葉を受け取ることができる「神託の巫女」、絵美。
そんな彼女には、啓太という義弟がいた。
「啓太くん、好きです、大好きです、愛してます!」
黙っていれば神秘的な美人巫女、しかし口を開けば末期までこじらせたブラコンお姉ちゃん。
そんな姉巫女が好きだからこそ敢えて離れていた啓太が大学合格と同時に実家に帰ってきた。
「お姉ちゃん、もう啓太くんのこと離しませんから!」
自慢のおっぱいを揺らして迫り、巫女服で誘い、シスコン弟のヤキモチまで利用して愛する啓太をノンストップで愛でるお姉ちゃん。
「弟が嫌いなお姉ちゃんなんていません! お姉ちゃんの好きにライクはないんです、常にラヴなんです!」
ブラコン姉の守護神たる姉神様の加護も得て、巫女お姉ちゃん、全力全開で弟を可愛がっちゃいます!

 青橋商店31冊目の同人誌。2016年の冬コミで配布。

 まあ、その、なんだ。お姉ちゃんです。とにかく甘々です。ブラコンとシスコンの、内容のない、欲望のままに書き殴った作品でございます。

 イラストが稍日向さんで完全オリジナル作品、ということは最初から決まってたのですが、なにを書くかは結構ぎりぎりまで迷いました。
 一昨年書いた「狐巫女の嫁入り」が好評だったのでこれの続編も考えましたけど、ここ最近、私の中でお姉ちゃん熱が高まっていたので、己のパトスに従いました。

 お姉ちゃんにも色々ございますが、今回は(すっごく大雑把に言うと)クーデレ系、でしょうか。
 巫女さんなのはイラストが稍さんだから、ということもありますけど、「お姉ちゃんには逆らえない!」のスピンアウト作品にしたかったためです。

通常サイズお姉ちゃんには逆らえない!
青橋由高(著)・みさくらなんこつ(イラスト)
美少女文庫
詳細はこちら

 これ、3年半前の作品だからそろそろ紙の本での入手が難しくなってる頃合いなんですが、興味ある方は探してみてください。もちろん、電子版は好評かどうかは知りませんけど発売中でございます。是非。是非っ!(ダイレクトマーケティング)

 もっとも、こちらのお姉ちゃんズが出るわけではなく、ブラコンの守護神こと姉神(あねがみ)様が共通しているってくらいなんで、別に読んでなくても全然問題ないです。
 まあ、色々と裏設定も考えておりますけれど、そこらへんは気にしないで大丈夫です。

 ストーリー……というほどのものはなく(いつものことです)、シスコンの義弟がブラコンで巫女のお姉ちゃんと二人暮らしを始めて、いちゃこらするだけの内容でございます。
 全3章で、エロシーンも3つ。毎度のように基本、着衣です。全裸、ダメ。絶対。着衣こそエロの神髄。異論は認めぬ。

 なお、すでに自分でもいくつか誤字脱字及び表現として微妙な箇所(「清らかな水で身を清める」とかの重複表現が大半)を発見しております。取り敢えず、誤字脱字のみ、以下で自首しておきます。

・45ページ 7行目『乾燥してえので』は『乾燥してたので』
・105ページ 17行目『修正』は『習性』
・123ページ 17行目『現在「』は『現在、』

 委託先のショップにもサンプルはありますが、序盤部分のテキスト24ページ分と、イラスト3枚のうちの1枚をアップします。18禁なので注意。あんまりエロエロしくはないですけどね。

サンプル01イラストサンプル

(序盤部分のサンプル)

プロローグ


 彼が東京を離れて生活するのは、養子として今の家にやって来る以前を含めても初めてだった。
 そんな、当時まだ十五歳の少年にとって北陸地方はまるで異国のように遠く感じられたが、それでも彼は家を出ての寮生活を決断した。
 住み慣れた土地を離れることはつらい。けれど、大好きな姉と離れることはもっとつらい。
 しかし、彼は目先の小さな満足よりも、将来の大きな幸せを目指した。
(お姉ちゃんの近くにこの先もずっとずっといられるように、僕は今、頑張らないといけないんだ)
 そして少年は、三年間の寮生活に旅立った。


 彼が自分から離れて生活するのは、義理の弟として彼女の元にやって来てから初めてのことだった。
 弟の進学先である北陸地方は、当時十八歳の少女にしてみればまるで異国のように遠く感じられた。
 それでも、彼女は弟の決断を尊重した。
 彼女を特別な巫女たらしめている神託も弟の判断を尊重すべしと出たこともあり、大好きな弟と離れる覚悟を決めた。
(弟と離れ離れになるのは辛いです。でも、この先もずっとずっと、未来永劫一緒に、幸せに暮らすために、今だけ我慢します)
 そして少女は、旅立つ弟の背中を見送った。
 彼女の袴のように真っ赤な血の涙を流しつつ。


 そして、姉弟どちらにとっても長い長い三年の月日が流れた。


第一章


(帰ってきた……僕はついに、ミッションをやり遂げてここに帰ってきたんだ……!)
 彼、浜中啓太は実家の前で胸の奥から湧いてくる深い満足感にぐっと拳を握り締めた。
(長かった……三年は長かったよ……)
 啓太は昨日、高校の卒業式を済ませたばかりだ。そして今日の午前中に青春の三年間を過ごした寮を離れ、東京の自宅に帰ってきたのだ。
 寝食を共にした仲間たちと別れるのはつらかったが、再び姉と一緒に暮らせる喜びのほうが勝った。彼らには悪いが、楽勝だった。圧勝だった。
(目標としていたこっちの志望校にも合格したし、あっちで色々と経験も積んだ。これで少しはお姉ちゃんの役に立てる、はず)
 三年前に己に課したノルマをすべてクリアできたことは大きな自信となっている。しかし、啓太の目標にはまだまだ遠い。
 この三年間で目的への距離は縮まっただろうが、憧れの姉の隣に立つにはここからが大切なのだと、新たな決意に表情を引き締める。
「おかえりなさい、啓太くん」
 だが、すぐにその表情は大きく緩んでしまう。義理の姉の絵美が彼を出迎えてくれたからだ。
「た……ただいま、絵美お姉ちゃん……っ」
 嬉しさのあまり声が少し裏返ったことをうまく誤魔化せただろうかと焦りつつ、三つ歳の離れた美しい姉を見る。
 今日はもう仕事を終えたのだろう、絵美は巫女装束ではなく私服姿だった。
 顔の半分を隠すような長い前髪、年齢以上に落ち着いた雰囲気、なにもかもを見透かすような澄んだ瞳、穏やかな笑みを浮かべる口元、そのすべてが啓太は大好きだった。
(綺麗だ……絵美お姉ちゃん、どんどん綺麗になってる)
 今日は春めいた気温のせいか、姉が少し薄着の私服だったのも啓太の鼓動を速めた。
 開いた胸元から覗く白く深い谷間、スカートから伸びた膝から下の美しいラインが啓太の意識を引き寄せる。
(ダメだダメだ、じろじろ見たらお姉ちゃんに嫌われちゃう)
 高校三年間で培った自制心を発揮し、強引に視線を首から上に引き戻す。
「ふふふ、久しぶり……でもないですね。年末年始も、大学受験のときにも啓太くんとは会ってますから」
「う、うん、そうだね」
「だけど、やっぱり久しぶり、という気持ちになります。短い帰省ではなく、これからまた啓太くんと一緒に暮らせるから、でしょうか」
「わ、わかる、僕もそれ、すっごくよくわかる!」
 大好きな姉とまったく同じ気持ちだったことが嬉しくて、啓太は身を乗り出し、こくこくと何度も頷く。
「新生活というわけではなく、また元の生活に戻っただけなんですけどね。やっぱり……」
 小さな、ちょっと尖り気味の愛らしい唇が動いてなにかの言葉を発したようだったが、啓太にはうまく聞き取れなかった。
「やっぱり、なに?」
「いいえ、なんでもありません。……さあ、早く家の中に。三月とはいえ、まだまだ夕方以降は寒いですから」
 古めかしい門をくぐり庭を進む絵美に啓太も続く。
 姉の背中を見ながらそのあとを追うのはどこか懐かしく、またも頬が緩む。
(あ、まずいまずい、来月からは僕ももう大学生、大人なんだ、お姉ちゃんに一人前の男って認めてもらうんだから、にやにやしてたらダメだ)
 だがシスコンの弟は知らない。このとき、自分の前を歩く義姉の顔もまた、啓太と同じかそれ以上に緩んでいたことを。
 そして、先程絵美が口にしたセリフが「やっぱり三年間は長すぎました。お姉ちゃん、もう理性が限界です」であったことも。


 浜中家の自宅は昭和を舞台にしたドラマの撮影にそのまま使えそうなくらいに古めかしい。ちょこちょこと手を加えているため設備自体は新しくて生活も快適だが、雰囲気は昭和どころか大正時代と言っても通用しそうである。
「あれ、綺麗になってる」
 手荷物を置きに自分の部屋にやって来た啓太は、一ヶ月前に比べて整頓されていることに気づいた。畳は綺麗に拭かれていたし、前回帰省したときに読み返してそのままだったコミックや雑誌がきっちり本棚にしまわれている。
「啓太くんが帰ってきてすぐに生活できるよう、お姉ちゃんが掃除しておきました」
 居間で待っているはずの絵美が音もなく現れた。
「うわ、お姉ちゃんっ!?」
「お布団もちゃんと干しておきました。今夜から気持ちよく眠れるはずです」
「ありがとう、お姉ちゃん。でも、部屋の掃除くらいは自分で」
「弟の部屋を監視……いえ、綺麗にするのは姉の仕事ですよ」
「う、うん」
 この三年間、男子だけの学校や寮で暮らして気楽な環境に慣れてしまった啓太は、これからは色々気をつけよう、と心に刻む。
(まあ、本当にヤバいやつは全部データだから、スマホとPCのパスワード管理さえしっかりしておけば大丈夫のはず)
 物理的にスペースが限られていた寮生活に適応するため、可能な限り映像や画像、音声、書籍は電子化してある。
 無論、健康な男子の宝物、オカズ系も例外ではない。むしろ、こちらに属するものこそ優先してデータ化を推進してきた。
(高校生活でこんなことまで詳しくなっちゃったなぁ、僕)
 啓太が通った私立高校は一流大学への合格者ランキングで上位に名を連ねる名門進学校だった。
 一方で、自由な校風でも有名で、個性的な卒業生を多く輩出してることもよく知られている。事実、啓太の周りには、よく言えば個性派、普通の感覚ならばただの変人、といった生徒だらけだった。
 そういった方面にやたらと詳しい同級生から「ヤバいデータの隠匿方法」「本当に役立つセキュリティ」「使えるエロデータの探し方」等々を三年間みっちり学んだ今の啓太は、姉に部屋をいじられても動揺したりはしない。
(これも成長……なの、かも?)
 中学生の頃、友人から借りたエロ動画を収録したDVDが隠し場所から机の上に移動していたのを見たときの苦すぎる思い出がふと蘇る。
「啓太くん、高校生活は楽しかったですか? いいお友達に恵まれましたか?」
 寮から届いていたダンボール箱を開けて室内着を発掘していると、絵美からそう尋ねられた。
「え? うん、ヘンなやつらばっかだったけども」
「啓太くんから送られてきた写真とか動画見て、楽しそうだなって思ってました。だけど、ちょっと寂しかったです」
「なんで?」
 寮で愛用していた学校指定のジャージを見つけた啓太は、姉の言葉に首を傾げる。
「私と一緒のときより楽しそうな顔、でしたから」
 少し寂しげな姉の顔に、シスコン弟は慌てて首を横に振る。
「そんなことないよ! 僕はずっと、またお姉ちゃんと一緒に暮らせる日を待ってたんだから!」
「ホントですか?」
「うん!」
「ホントのホントですね? お姉ちゃん、嘘吐くような弟に育ててませんよ?」
「大丈夫、僕を信じて!」
「はい、信じます」
 先程の寂しそうな表情から一変、弟の心を鷲掴みにして揉みくちゃにしてとろとろにしちゃうような笑顔に、啓太は数秒間、呼吸すら忘れてしまう。
「じゃあ、お姉ちゃんのことが大好きな可愛い弟のために、甘いココア、用意しておきますね。着替え終わったら居間に来てください」
 長い前髪に隠れた瞳を柔らかく細めると、絵美はそう言ってもう一度微笑んだ。


「あー、こたつでココア……最高……」
 広い和室の真ん中に据え付けられたこたつに入りながら、姉が作ってくれた甘いココアを啜る幸せに、啓太はふにゃふにゃと溶けていく。顎をテーブルに乗せ、だらしなく背中を丸めてこたつの温かさを堪能する。
「寮だとこたつ、使えなかったんですか? 前に見せてもらった写真だと、部屋は結構広く見えましたけど」
「使えなくはなかったよ、うん。ただ、大勢で使うとさすがに狭くなっちゃうから」
「啓太くんの寮って、全員個室ですよね?」
「下手にこたつなんて出しちゃうと、絶対にみんなの溜まり場になるもん」
「なるほど、そういうことですか」
 向い側で同じようにこたつに足を入れていた絵美が納得する。
「みんなが集まる部屋ってだいたい決まってたんだ。その代わり、お菓子とか飲み物は持って行ったりして」
「へえ。楽しそうですね。私はずっと自宅から通ってたから、そういうのに少し憧れます」
「……大学、行きたかった?」
 少し考えてから、啓太はずっと聞きたかった疑問をぶつけてみた。
「え? 全然。高校で充分です。私は『神託の巫女』ですから。お友達も地元に何人もいますしね」
 絵美は代々続く特別な巫女の末裔で、現在はこの自宅兼神社を一人で切り盛りしている。
 もっとも、神社といっても一般にはまったく知られていないし、知られようとも考えていない。
 昔からの、ごくごく少数の信者に対して神託を伝えることを生業としている一族なのだ。
「あ、お母さんたちから啓太くんに伝言がありました」
 絵美の両親、つまり啓太の養父母は現在、この家には住んでいない。娘である絵美に代を譲ってからは、父の故郷である北海道に新たに家を建て、そこで悠々自適のセカンドライフを始めている。
「なんて?」
「お姉ちゃんのこと、末永くよろしく頼むわ、だそうです」
「……姉と弟が逆じゃないのかなぁ、それ」
「なんだか娘を嫁に出す親のセリフみたいですよね」
「ぶふっ!」
「ふふふ、そういうわけですから、これからも末永くよろしくお願いしますよ、啓太くん」
「僕のほうこそよろしくお願いします、絵美お姉ちゃん」
 姉弟はこたつに入ったまま頭を下げ合う。
(うあ。お、お姉ちゃん、おっぱいをこたつに乗っけてるっ)
 胸が重いのだろう、絵美は昔からテーブルなどにその豊かな乳房を乗せることが多かった。けれど、久々に見た上、この三年でさらに育ったのか、記憶の中よりも大きくなった柔らかそうな膨らみに、啓太は何度も生唾を飲む。
(あうぅ、今日のお姉ちゃんの服、胸のところが開いてるから、谷間が丸見えだよぉ)
 しかも胸元が開いた服のせいで、ただでさえ深い魅惑の谷間がより奥まで覗けてしまう。
(お姉ちゃんってば、無防備すぎるよっ。僕、弟だけど男なんだよ? 血だって繋がってないんだよ?)
 啓太はむくむくと膨らんできた股間を隠すように背中を丸める。そのくせ、視線は義姉のバストから動かさない。否、動かせない。
(僕がお姉ちゃんのこと、女の人として好きだって知られたら困るのに。姉弟だからこうして一緒に暮らせるのに)


(啓太くん、すっごく見てます。うふふふ、どうですかお姉ちゃんのおっぱいは。きみがお姉ちゃんを置いて出て行った三年間でサイズが二つも上がったんですよ? 可愛い弟を想ってハアハアしながらマッサージしたおかげなんですから)
 義弟の視線に気づかぬふりをしつつ、ブラコン姉巫女は心の中だけで胸を張る。
(でも、よかったです。啓太くんがちゃんと私への興味を持ち続けてくれて。いくら姉神様が大丈夫と言ってくれても、ずっと心配でしたから)
 絵美の一族は代々、様々な神とコンタクトできる特殊な力を持つ巫女を輩出してきた。いわゆる神託、である。
 ただし、どの神様からのお告げを受け取れるかは、巫女それぞれの資質によって異なる。特定の神と繋がれるわけではないため、神社を構えないのだ。
(この先も姉神様のお告げどおりに、啓太くんとのラヴラヴ新生活になるといいのですけど)
 絵美が姉神という神様と「繋がった」のは今から十二年前のことだった。
 当時十一歳だった絵美は、身寄りを亡くしてしまったという少年と出会う。世話好きの父親がしばらく預かることになったのが、絵美と啓太の運命を変えたのだ。
 三つ歳下の啓太は唯一の肉親である祖母を病気で亡くしたばかりで、かなりふさぎ込んでいた。
 この頃、絵美もまたとある悩み事を抱えていたこともあり、啓太は気になる存在だった。
 その悩みを啓太が結果的に解決してくれたことで、絵美の中におけるこの少年の存在感は一気に増した。
(そうでした。啓太くんが初めて私をお姉ちゃんと呼んでくれたのも、こうして二人でこたつに入っていたときでしたね)
 東京に珍しく大雪が降ったその日、絵美は半ば強引に啓太を外に連れ出し、一緒に遅くまで遊んだのだ。絵美が啓太の笑顔を初めて見たのも、そのときだった。
 すっかり冷え切った身体を温めるために一緒に風呂に入り、こたつに入りながら甘いココアを飲んでいるときに、啓太が「絵美お姉ちゃん」と呼んでくれたのだ。
 それまでも啓太を可愛いとは思っていたが、お姉ちゃんと呼ばれた瞬間に全身を駆け抜けたあの甘い衝撃は今も鮮明に覚えている。
(他の男の子にお姉ちゃんって呼ばれてもなにも感じないのに。啓太くんはホントに特別なんですね)
 以来、絵美は弟だけを見つめて生きてきたのだ。
「懐かしいです」
「え? なにが?」
「耕太くんは覚えてますか、私を初めてお姉ちゃんと呼んでくれた日のことを」
「うん、もちろん覚えてるよ。……あ、そうか。あのときもこんなふうに二人でこたつでココア飲んだんだよね」
 絵美にとって一生忘れられない大切なシーンを、啓太も覚えていてくれたのが嬉しい。
(あのときなんですよ、私が姉神様からのお告げを聞けるようになったのは)
 日本海側にある某県の土着の神である姉神は、東京ではまったくと言っていいほど知名度がない。しかし、弟大好きなブラコン姉の守護神としてはごく一部で有名だった。
 なんでも、地元では姉神縁の地を百八箇所巡礼すると(弟絡みならば)どんな願いでも叶えてくれる、という話もあるらしい。
「覚えてるのはこたつとココアだけですか?」
「お姉ちゃんと雪だるま作ったのもちゃんと覚えてるよ」
「はい、そうでしたね」
「雪合戦もしたよね」
「啓太くん、私に負けて泣いてました」
「そ、それは覚えてないけどっ」
「他にはありますか?」
「え? なにかあったっけ?」
「啓太くんにお姉ちゃんの裸見られたのも、あの日が初めてだったんですよ?」
「い、一緒にお風呂に入っただけでしょ!? 誤解を招くような言い方はやめてよっ」
「あら、お風呂はいいんですか? だったら、最後に啓太くんと一緒に入ったのはいつだか覚えてますか?」
「お、おお、覚えてないよっ。も、もういいでしょ、その話題はっ」
「ふふふ、照れる啓太くん、可愛いです。……ちなみに、最後の一緒のお風呂は、私が十四歳、啓太くんが十一歳のときでした」
 ちょうど啓太くんのオチン×ンにうっすら毛が生えてきた頃ですね、とは言わないでおいた。姉の情けである。
「ああ、今、思い出したことがあります」
 絵美はこたつの奥にずるずると身体を潜らせていく。
「こうやってきみのことをつんつんしたんでしたっけ」
「わわっ、お姉ちゃん、やめて、くすぐったいよぉ」
 あの頃に比べてずっと長くなった脚を伸ばし、すっかり逞しくなった弟の膝や太腿、さらにその先のデリケートなゾーンをつま先でつつく。
(くすぐったいだけですか? 違いますよね、お姉ちゃんのおっぱいでおっきくなっちゃったのを知られるのが恥ずかしいんですよね?)
 身悶える弟を楽しげに見つめる姉の口元には、いつしか淫らな笑みが浮かんでいた。
(どうせすぐに見ちゃいますけど。大人になったきみのオチン×ン、お姉ちゃんがホントの意味で大人にしてあげちゃいますけれど)
 唇の端からこぼれかけた涎をマグカップで隠しながら、二十一歳のブラコン巫女は髪に隠れた瞳を妖しく潤ませるのだった。


 しばらくのんびりしていていいですよ、と絵美には言われたものの、実家に戻ってきた二日後から啓太は家の、つまりは姉の手伝いを申し出た。
「大学が始まったら忙しくなるんですから、今のうちに羽を伸ばしておいたらどうですか?」
「荷解きも終わったし、なにより、お姉ちゃんの力になりたいんだ」
「うふふ、啓太くんはお姉ちゃん泣かせですね。そんな嬉しいセリフもらったら、なにも言えなくなっちゃいます」
「僕、なんでもするよ。もちろん、お姉ちゃんの仕事のことはまだよく知らないから色々教えてもらわないと、だけど」
「わかりました。では、お座敷に行きましょう。そこで色々と啓太くんにお姉ちゃんが教えてあげます」
 神様と繋がる場所でもある座敷は、この家で最も広い部屋でもある。
 そのど真ん中で啓太は巫女装束に着替えた絵美と向かい合って座る。
(久しぶりに見たけど、やっぱり巫女さんの格好、最高に似合うなぁ、お姉ちゃん。可愛いし美人だし神秘的だし、それにちょびっと色っぽいし。おっぱいの膨らみも凄いし)
 神聖な服に対して邪な感情を抱く己に呆れるが、十八歳の健康な男子の視線はなかなか姉の胸元から動かせない。
「啓太くんもお母さんのを見てるからだいたいは知ってると思いますけど、念のため、最初から説明しますね」
「う、うん。よろしくお願いします」
 そんな弟の視線に気づいてないのか、絵美は静かな口調で仕事について丁寧な説明を始めた。
(集中集中、せっかくお姉ちゃんが教えてくれるんだ、ちゃんと覚えるんだぞ、僕)
 「神託の巫女」の仕事とは、依頼主に神様(絵美の場合は姉神様)からのお告げを伝えることだ。
 しかしそれは最後の段階であって、本当に大変なのはそこに至る過程なのだと絵美は言った。
「中にはいつでも自由に神様の姿を見たり声を聞いたり、それこそごく普通に会話までできる人間もいるみたいですけど、私にはそこまでの力はありません。だからしっかり準備を整え、姉神様との距離を少しでも縮めるのが平時の私のお仕事なんです」
 神様にもそれぞれ得意分野があり、クライアントの要望(多くは質問形式となる)に直接回答できるケースは少ない。
 そのため、まずは繋がりのある神様を通じて別の神様に聞いてもらう、というステップを踏むことがほとんどだという。
「なんだか大変なんだね。神託って、その場ですぐにもらえるもんだと思ってた」
「簡単な質問、占い程度であればもちろん姉神様でもわかりますけど、依頼されるみなさんはだいたい専門的で具体的なご神託を求めてますから」
 決算期は大企業のオーナーなどがこっそりと来期の経営方針などを聞きに来るため忙しいというが、三月も残り半分を切った今はピークを過ぎたらしい。
「そ、そうなんだ。ごめんなさい、一番大変なときに手伝えなくって」
「啓太くんが謝る必要はどこにもありません。お姉ちゃんを気遣ってくれるその優しい心だけで充分です」
 絵美はそう言ってくれたが、啓太としては少しでも大切な姉の力になりたい。そのために有名な進学校で一人で努力し、有名大学にも合格したのだ。
 実務担当として姉のサポートをしたいというその一心だった。
「でも、先程言ったように、神託の巫女は普段の準備が肝要となります。常日頃から身を清め、霊力を高め、姉神様との接続経路を太くしておくのが私の一番の仕事です」
「うん」
 頷きはしたが、霊力や霊感の類に恵まれてない啓太にはぴんと来ない。ぼんやりと、滝に打たれたり、水浴びをする義姉の姿が脳裏をよぎるくらいだ。
「……念のため言っておきますが、今、きみが想像してるような修行の類はありませんから」
「お、お姉ちゃん、僕の心を読めるの!? 巫女って凄い!」
「神託の巫女にそのような能力はありません。ただ、姉には弟の心をある程度読む能力が備わってますから」
 ここまでほとんど表情を変えなかった絵美が、少し誇らしげに胸を反らした。
 豊かな膨らみがたゆん、と揺れるのが巫女装束の上からもわかってシスコン少年は唾を飲み込む。
 もし、啓太がキスの経験もないような童貞でなければ、姉がノーブラであるとすぐにわかったかもしれない。それほど、今の乳揺れは迫力があった。
「ぼ、僕とお姉ちゃん、血が繋がってないけど、それでも?」
「姉と弟という関係性の前では、血縁の有無は副次的なものでしかありません」
 絵美は迷いなく言い切る。
「いい機会だから啓太くんに世界の真実を教えておきます」
「世界の真実!?」
 いきなりスケールが拡大したことに啓太は目を丸くする。
(さすが神託の巫女さん! でもそうだよね、神様と繋がってるんだから、世界の真理とかそういうものにも触れられたりするのかも!)
 自分はこれからとんでもない知識を目の当たりにするのか、と身構える啓太に対し、絵美もまた大真面目な顔で続ける。
「まずこの世には、基本的に女か男しか存在しません」
「うん」
「そして、女と男もそれぞれ二種類に分類できます」
「たった二種類?」
「はい。女は、姉か否か。男は、弟か否か。それだけです」
「え?……え?」
「つまり、世界は案外単純なのです」
「単純すぎない!? しかも凄く偏った視点じゃない!?」
「真理とは、それを知らぬ者にはなかなか理解できないものなのです。人類は、これを相互に理解できない者たちのすれ違いが生んだ悲しみの歴史の上に存在しています」
「……」
「女は姉と姉でない状態で、男は弟と弟でない状態で同時にこの世界に存在しています。そして、姉に、あるいは弟に認識された時点でそれぞれ姉と弟に確定するのです」
「…………うん」
 不確定性原理やら観測者効果やら量子力学やらゆらぎといった単語と、そういう話が好きだった高校の物理教師の顔が啓太の脳裏をよぎる。
 疑問点やツッコミどころは山ほどあった。
 しかし、身を乗り出して熱弁する姉の真剣な目(片方は相変わらず髪に隠れているが)の前では些細な問題だった。少なくとも、シスコンの啓太にとっては。
(こんな熱心なお姉ちゃん、珍しい。そして、可愛い)
「私が啓太くんのお姉ちゃんになったのは、啓太くんが私をお姉ちゃんと呼んでくれたあのときからなんですよ」
 二日前にしたばかりの昔話が脳裏をよぎる。
「あの瞬間、私は姉としてこの世界に確定しました。同時に、姉神様の存在を感じられるようになったんです」
「だけど、僕がこの家に引き取られて養子になったのは、そのあとだよね?」
「それは書類上の話ですから。血の繋がりや戸籍なんてものは二の次三の次です。そもそも啓太くんが我が家の養子になったのは、私が両親に強くお願いしたからですし」
 その話は啓太も養父母から聞かされていたが、まさかここまで真実だったとは予想外だった。
(そっか。お姉ちゃん、そんなにも僕のことを大切な弟と思ってくれてたんだ)
 シスコン少年の胸が感動でじんと熱くなる。
 けれど啓太は知らない。このあと、もっと身体の一部が熱くなることを。感動とは別の理由で。
「さて、啓太くんにも世界の真実を知ってもらったところで、今度は実技で仕事を覚えてもらいましょう」
 そう言って立ち上がった絵美のあとをついていく。
 巫女姉が向かった先は浴室だった。
「巫女は毎日、清らかな水で身を清めなくてはなりません。私も毎朝、沐浴をしています」
「え。沐浴って、ここで? 井戸とか滝の水ってイメージが……」
「我が家のどこにそのようなものがあります?」
「……確かに」
「安心してください、うちの水道は井戸水です」
 絵美はなぜか得意げな顔でシャワーを指差す。これで沐浴をしている、ということだろう。
「沐浴というより、ただシャワー浴びてるだけ、と思ってますね?」
「また心を読まれた!?」
「うふふふ、姉はときどき弟の心を読めるんです。世界の真理の一つです」
 二十一歳の巫女姉はさっきよりも得意げに胸を張り、小鼻をぷくん、と膨らませる。
「ああ、もちろん、冬場でも冷水ですよ」
「それは大変だ……。風邪引かないの? 平気?」
「井戸水は、冬は温かくて夏は冷たいですからね、水道水よりずっと楽です」
 そうは言っても、真冬の早朝に水を浴びるのは相当つらいはずだ。想像するだけで鳥肌が立ちそうになる。
「啓太くんは優しいですね。……せっかくですから、実際に沐浴してるところを見せます」
「えっ、いいよ、風邪引いちゃうよ」
「もう春ですし、昼間だからお水も温かくなってますから。……啓太くんに見てもらいたい、知ってもらいたいんです、お姉ちゃんのお仕事を」
「……わかった。ちゃんと見てるね」
「約束ですからね? ちゃんと、しっかり、お姉ちゃんのこと、見てくださいね、啓太くん」
(?)
 このとき、姉の瞳がすっ、と細められ、唇の両端が持ち上がったのを啓太は見た。


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