通常サイズ青橋由高短編集9 怪盗メイドの事件簿(18禁)
青橋由高(著)
青橋商店

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 青橋商店26冊目の同人誌。2015年の夏コミで配布。

 80ページ、イラスト・カラーカバーなしのいつものフォーマットです。
 原作知らないとまったくわけがわからない内容というのも毎度のパターン。

 今回の主な原作はこの2作。

大きめサイズ怪盗メイドの事件簿
青橋由高(著)・有末つかさ(イラスト)
美少女文庫

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通常サイズ恋乙女 ヤンデレ生徒会長ささら先輩と毒舌水泳部・琴子ちゃん
青橋由高(著)・有末つかさ(イラスト)
美少女文庫

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 この2冊のメインキャラである耕助&芽衣、悠真&ささら&琴子のバカップルたちが雪山の旅館でいちゃいちゃするという、ただそんだけの話です。
 裏設定はいくつかあるんですが、別にそんなのいらないよね、と勝手に判断して、ほとんどおバカな会話に終始してます。書いてる私は楽しかったです。読んだ方が楽しいかは知りませんが!

 耕助と芽衣が冬休みになったら雪山にスキーに行く、という計画はどっかの販促ペーパーで書いたショートショートが元ネタになってます。

 実はこの話と、ブログで公開するとか言っておきながらいまだにやってない「怪盗メイドの事件簿」のカットシーンを加筆修正した「織園島急行事件・完全版」の2本立ての予定でした。
 まさか1本だけでこんな分量になるとは思ってませんでした……。

 なお、エピソードにちらっと出てくるのはこの作品のキャラたちです。

通常サイズここは妖怪メイドアパート
青橋由高(著)・有末つかさ(イラスト)
美少女文庫

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 本筋には関係ないですけど、原作知ってるとより楽しいかもしれませんので、未読の方は是非……と、ストレートに宣伝。

 以下、本文のサンプルテキストです。約8ページ分あります。
        1


 高校生探偵、鮎川耕助の長期休暇や連休はたいてい、自宅以外で過ごすことになっていた。
 子供の頃は名探偵である祖父や父に連れられ、様々な特訓のために。
 成長してからは幼なじみである海藤芽衣の特訓の付き添いに。
 そして現在、すなわち鮎川家の宿敵であるはずの怪盗メイド・キャットと手を組んでからも、休みになると家にいない、という状況は変わらずに続いていた。
「なーなー、やっぱ無理だって」
 なんだかんだで色々あったクリスマスもどうにかクリアし、これまた色々ありそうな年末年始を控えた十二月下旬、耕助は雪山にいた。
「すぐにそうやって諦めるのは耕ちゃんの悪いクセだよ」
「物事の判断を自分という規格外の定規で行うのは芽衣の悪いクセだ」
 今、耕助と芽衣がいる山はカラフルなウェアを纏ったスキーヤーで埋め尽くされて……などはおらず、見渡す範囲の大半が真っ白な雪で覆われている。
 少なくとも耕助の視界の中には、この幼なじみ以外に人は見当たらない。
「にゃあぁ」
 人間に限定しないのならば芽衣の頭の上で丸くなっている黒猫のフランソワーズもいるが、
「フランも僕に同意しているぞ。さっさと旅館に戻ろうって言ってる」
 寒さが嫌いな彼女は明らかにこの状況に不満を抱いている。鳴き声もどこか震えて聞こえる。
「我々『寒いところには行きたくない党』のほうが過半数だ、ここは多数決でいかがだろーか」
 にゃん、と同志フランソワーズが鳴く。
「ここら辺のくだりはアニメイトさんでの特典ペーパーに書かれてるのでよろしくだ」
「にゃん」
「宣伝で誤魔化そうったって無駄だからね、耕ちゃん。フランも。ちゃんとあなた専用のスキーウェアも作ってもらったんだから大丈夫でしょ?」
「にゃあぁ……」
 ふるふると首を振る動作すら億劫そうなフランソワーズは芽衣とお揃いの服を着せられてはいたが、それでもこの寒さは我慢できないようだ。
「ワガママはダメだよ。これは訓練なの。雪山でお仕事することだってこれからあるかもしれないんだから」
「僕は頭脳労働担当だから、別にスキーの特訓はしなくてもいいよな? 芽衣とフランの特訓を僕は遠くから見守る、ということでいかがだろーか?」
「にゃっ」
 この裏切り者、という目でフランが睨んでくる。
「ダーメ。別に私と同じメニューをこなさなくてもいいから、人並みくらいには滑れるようになってもらうからねっ」
「いやいや待て待て、僕だって人並みには滑れるぞ?」
 これは嘘ではない。スキーは子供の頃から何度もやっているのだ。
「耕ちゃんのは人並みじゃないよ。初心者ではないってだけ」
「だから、なんでお前はすぐに自分を基準にする!?」
 この運動神経が異常なまでに発達している少女は、しかし、少年の必死の抗議も笑顔で受け流す。悪意がないのが余計に悪質だ。
「大丈夫、ちゃんと私がコーチしてあげるから」
「全っ然大丈夫じゃねえ!」
「そんなに厳しいことしないってば。なにかの事件に巻き込まれたとき、真夜中、一人で急斜面を滑降しても問題ないってレベルで合格にするから」
 耕助(とフランソワーズの連合軍)はしつこく抗戦したが、
「さ、始めるよ」
 この鬼軍曹はにっこり微笑むと、地獄のスキー合宿を容赦なく開始する。
「ああああっ、死ぬ、死ぬううぅっ!」
「ふにゃああああああっ!!」
 山を覆う大量の雪が一人と一匹の悲鳴をただただ静かに吸い込んでいた。

        2

「今、なにか悲鳴みたいなの聞こえませんでした?」
「そう? 私にはなにも」
 根元悠真の問いかけに首を振ったのは中之宮ささらだった。
「歳を取ると可聴範囲が狭くなるって言いますからね、年増先輩にだけ聞こえなかった可能性も高いです」
 続いてそう言ったのは天野琴子だ。
 このスキー旅行のために新調したウェアに身を包んでいる三人が滑っていたのは、探偵と怪盗のコンビが特訓している場所の隣、もっと傾斜が緩やかな山だ。
 ただし、他にスキー客がいないという点はこちらも変わらない。
「そうね、先祖がウサギの琴子にはよく聞こえたかもね。いいのよ、懐かしい雪山で野生に戻っても」
「年増って点は否定しないんですね。いいんですよ、無理してあたしやセンパイに付き合わなくても。足腰がくがくになって、明日から旅館で寝込むはめになりますよ?」
「ご心配なく。どうせ今夜はダーリンが私を朝まで愛してくれるはずだから、どっちにしろ足腰はがくがくになっちゃうもの」
「イヤですね、耄碌すると妄想と現実の区別がつかなくなっちゃって。そこの淫獣ダブリンがその溢れんばかりの欲望を発散する相手はこのあたしですから。なんでわざわざあなたのような電波を襲う必要があるんです?」
「悠真が好きなのは私だもの。琴子もいい加減、愛玩動物という自分の立場をわきまえたらどうかしらね?」
「妄言吐く前に、その鬱陶しい前髪をどうにかしたらいかがです? ゴーグルなんていらないんじゃないですか?」
「あ、それ、俺も気になってました。ささらさん、前、見えてます?」
 このまま放っておくと延々と二人の不毛な言い争いが続くので、悠真は強引に割り込んだ。
「ちゃんと見えてるわよ。少なくとも悠真の、私を見つめる熱い瞳ははっきりと」
 ささらの右目は普段から長い前髪によって隠れているが、その上からスキーゴーグルをかけているため、かなりインパクトの強い外見になっていた。
「見えてませんね。むしろ幻覚じゃないですかそれ」
「耳生やしたウサギに言われたくないわね。とっとと雪山にお帰りなさい」
 ささらの前髪と同じようにトレードマークとなっている琴子のリボンももちろん健在だ。滑っていると大きくはためき、かなり目立つ。
「えーと、結局、悲鳴みたいなのを聞いたのは俺だけってことでいいの、かな?」
「私には聞こえなかったけど」
「あたしも」
「なによ、琴子も聞こえてなかったんじゃないの。ウサギのくせに」
 再び舌戦が始まりそうだったので、悠真はまた話題を逸らす。
「ごめん、俺の空耳だったみたいだ。……そうだよな、こんな人気のない雪山で悲鳴なんて聞こえるわけないもんな」
 悠真たちは揃って周囲を見渡す。
「全然、人、いないわね」
「ホントに大丈夫なんでしょうね、あの旅館」
「大丈夫とはどういう意味? 中之宮家が代々利用している由緒ある旅館に文句でもあるの? 別にかまわないのよ琴子。あなただけさっさと帰っても。むしろそのほうが私も悠真も嬉しいし」
「いちいち突っかかる年増ですね。更年期障害ですか? あたしだって別にかまいませんよ、センパイと二人で帰るだけですから。ああ、途中下車して二人だけの旅行を続けてもいいですね」
 せっかく話題を変えても、この二人はすぐにこうなってしまう。
 互いに全力で否定するが、これらの遣り取りもある種のコミュニケーションなのだと悠真はわかっているものの、それでも落ち着かない。
 なにより、放置しておくと最終的に割を食うのは常に悠真だからだ。
「でももったいないですよね、こんなにいい山なのに俺たちだけで滑るなんて」
「そうね、他に泊まってる客もいるようだけど、そっちは隣の山に向かったらしいわ」
「隣って……あれですか?」
「うっわ。あんなところで滑るなんてずいぶん酔狂な人たちですね」
 悠真と琴子が呆れたような顔をしたのは、それだけ急な斜面だったからだ。
(あれ? さっき悲鳴みたいのが聞こえたの、あっちの方向じゃなかったっけ?)
 もしかして事故でも起きたのかと目を凝らすが、
「他の人間なんてどうでもいいでしょ。今はキミの特訓よ」
「そうですよ。来年はあたしと一緒に全国で活躍するって約束、忘れたんですか?」
 右手をささらに、左手を琴子に引っ張られ、スキーに戻らされる。
「特訓って……俺はトライアスロンだし、琴子は水泳部じゃ……」
 三人で並んでゆっくり滑りながら、今さらながらの疑問を口にする。
「身体を動かすのは一緒でしょ。本当は登山を考えてたんだけど」
「完全に別の競技になってますが」
「あら? 自転車の強いスペイン人が、チームメイトたちと雪山登るトレーニングしてるって記事、ネットで読んだわよ」
「それ、自転車ロードレースの話ですよね。俺もどっかで見ましたが」
 あれは肉体的な鍛練というよりも、チームの結束を高めるという意味合いが強い、と書いてあったような記憶がある。
(トライアスロンは基本、個人のスポーツだからなぁ)
 そう思う一方で、でも自分は確かにこの二人がいるからこそあの苦しいレースを泳ぎきれる、走りきれるのだと知っている。
 たとえこの合宿が三人で旅行するための大義名分だとしても、悠真にとってはきっとこれから先のトライアスリート人生において力になるという確信があった。
「どっちにしろ、来年になればどこかの誰かさんは卒業しちゃって関係なくなりますけどね」
 悠真の隣で、今年全国大会に出場した期待の一年生スイマーがむひゅっ、と笑うのが見えた。