お姉ちゃんのムコになれ!お姉ちゃんのムコになれ!
青橋由高(著)・悠樹真琴(イラスト)
美少女文庫

 自己最厚作品となった「お姉ちゃんのムコになれ!」ですが、それでもカットしたページは延べ3桁を超えます。
 今回はその中から、比較的サルベージしやすいシーンをいくつか公開します。
 かなりネタバレしてますんで、未読の方は見ないほうがよろしいかと。
 なお、エロシーンはありませんのであしからず。

 各シーン毎に、実際ならここに挿入されていた、というメモがありますので、本編と合わせてお楽しみください。
 本編未読の方は、是非お買い求め願います(笑)。




二章の最後

 どろどろに溶け合ったその三十分後、光原姉弟は夜の校舎内をよたよたと歩いていた。
「おいこら、あまりくっつくな。鬱陶しい。甘えるんじゃない、このうつけが」
「え」
 龍之介が思わず隣を歩く希望に目を遣ったのは、理由がある。
 あまりに激しすぎた行為の代償で腰から下に力が入らなくなった希望は両腕で龍之介にしがみつき、そのせいで歩く速度が遅くなっているからだ。
「なんだ、その目は。言いたいことがあるならはっきり言え」
「……言ったら怒るくせに」
「当たり前だ。弟が姉に文句を言うな。そういうことは歳上になってからほざけ」
「そんな無茶な」
「できないなら黙って足を動かせ。……こら、速いぞ、もっとゆっくり歩けバカ者っ」
 強がってはいるが、その両脚はまるで生まれたての子馬のようにぷるぷる震えている。
「姉さん、はい」
「……なんだ、それは。どういうつもりだ、お前」
 いきなり目の前でしゃがみ込んだ弟に、姉が困惑する。
「だから、おんぶ。この調子じゃ、いつまで経っても帰れないよ?」
「誰のせいだと思ってるっ。お前があんな……ケダモノのように私を犯したせいだろうが! 初めてだったんだぞ、痛かったんだぞ、お前が初めての男だったんだぞ!?」
 希望はさっきから何度も「初めて」を強調してくる。どうやら自分でも、いきなりあんなに乱れたことを気にしてるらしい。
 もちろん、龍之介は姉が処女だったことをまったく疑ってないし、感じまくっていきなり絶頂しまくったのもむしろ喜んでいるほどだ。
(必死になってる姉さん、可愛いなぁ)
 重度のシスコン少年には、希望の慌てた姿もご馳走である。要するに、相手が姉であればなんでもいいのだが。
「ほら、早くしないと、家に着く頃には日付変わっちゃうよ?」
「くっ……龍之介の分際で偉そうに……!」
 姉としてのプライドがあるのだろう、なかなか龍之介の申し出に応えようとしなかった希望だったが、己の状態を考慮したのか、
「……わかった」
 ようやく折れた。が、ここで予想外の注文を突きつけてくる。
「お前はもう私の男だ。ならば、おんぶなどするな」
「え? じゃあ、どうするの?」
「……抱っこだ。私を抱っこして駐車場まで連れて行け。男なら……私の恋人なら、それくらいの甲斐性を見せてみろ」
 照れくさそうに横を向きながら両手を差し出す姉の要求を断る選択肢など、最初からあるはずもなかった。
 そして龍之介は、愛しい姉をお姫様抱っこしたまま、ことさらゆっくりと駐車場に向かうのだった。

四章ラスト

 龍之介と流音が帰宅したのは、夜の九時過ぎだった。
(電話はしておいたけど……お姉ちゃんも姉さんも怒ってるかな)
 沙月と希望には、流音が体調を崩したから一緒にタクシーで帰ると連絡してある。
 龍之介も流音も運良く体操服があったのでそれに着替え、当直の教師に見つからないように学校を抜け出し、少し離れた場所でタクシーを拾ったのだ。
「るー姉、着いたよ。……るー姉?」
 家の前で停まったタクシーの後部座席から流音が出てこない。
「具合悪いの?」
 料金を払い終わった龍之介が心配そうな顔を浮かべると、
「ええ、誰かさんのせいですわ。だから……はい」
 金髪姉は両腕を前に出して、弟に抱っこをねだってきた。
「もう……お姉ちゃんなのに甘えん坊だね」
 もちろん、龍之介は喜んでリクエストに応える。
「お姉ちゃんはお姉ちゃんだけど、あなたのお嫁さんでもあるんですから、このくらい当然ですわ」
 お姫様抱っこをしながら、ゆっくりと我が家の門へと向かう。
「えっと……るー姉」
「言わなくてもわかってますわよ。お姉ちゃんたちには内緒、なんですよね?」
 弟にしがみつきながら、流音がにっこりと微笑む。
「ただいまー」
 家に入ると、すぐに沙月と希望が玄関にやって来た。心配してくれてたようだ。
「るーちゃん、具合が悪いって、大丈夫なの?……あ」
「おい、なにがあったんだ。……え」
 だが姉たちの顔は、弟に抱っこされている妹を見て表情を変える。
「あ、うん、ちょっと貧血だったみた……んんん!?」
 あらかじめ考えておいた言い訳を龍之介が口にしようとしたそのとき、柔らかくて甘いなにかが唇を覆った。
「えええええっ!?」
「なああぁ……!!」
 それが流音の不意打ちキスだとわかったときにはもう、龍之介たちには長女と次女の鋭い視線が突き刺さっていた。
「ど、ど、どういうことなの、龍くん、るーちゃん!」
「お、おいこら、今のはなんだ、なんのつもりだこら!」
「え、えっと……るー姉!?」
「ごめんなさい、お姉ちゃん、姉さん。でも……要するに、そういうことですわ」
 姉二人を煽るように、流音はさらに弟に密着し、まだ生乾きの金髪ドリル揉み上げを華麗に掻き上げる。
「この子はもう、私のお婿さんになりましたから」
 そう言ったときの流音の笑顔は、その美しい黄金色の髪よりもずっと輝いていた。
 もっとも、この後の修羅場を思うと、姉の美しさに感動してる余裕など龍之介にあるはずもなかったのだが。

五章の序盤

 陽が落ちてもまったく不快指数の落ちない夜、希望は珍しく姉の沙月と二人きりで酒を飲んでいた。十全なる引きこもりである沙月がわざわざ飲みに外出するはずもないので、場所は光原家のリビングである。
「ぬう……遅いな、あの二人」
 白ワインをがぱがぱとグラスに注いでいた希望が、壁掛けの時計を睨みながら不機嫌そうに言った。ここでいう二人とは、当然龍之介と流音である。
「んー、確かにちょっと遅いよね」
 缶ビールをくぴくぴと飲んでいた沙月も同じように時計を見上げて、相槌を打つ。
「あ。もう空だ。お願い、希望ちゃん」
「へいへい」
 不器用な希望はワインのコルクを自分では抜けないし、非力な沙月は缶ビールのプルトップや瓶の栓を開けられない。コルクはあらかじめ龍之介に頼んで抜いてもらっているが、缶を開けるのは妹の希望の役割だ。
「しかし姉さん、缶も開けられないんじゃ一人で家飲みもできないな」
「大丈夫、龍くんいるときしか飲まないし。龍くんいると楽しいし、おつまみ作ってくれるし、酔っ払って寝ちゃってもお布団まで運んでくれるし、至れり尽くせり」
「なっ……そんなことしてたのか!? 初耳だぞ姉さん!」
「希望ちゃんだってよくやってるじゃない、ここで。お姉ちゃんは引きこもりだから、お部屋に龍くん呼んでただけで」
「ぐっ……いけしゃあしゃあと……ッ」
 最近、希望は今さらながら目の前の姉が食えない女であると気付いた。
(伊達に長く生きてないか……四捨五入したらもう三十路だもんな、姉さんも)
「あー。なんか今、悪口言われた気がするんだけどー」
「し、知らんっ」
 内心びくりとしたのを悟られぬよう、グラスに残っていたワインを一気に空にする。
(この女、実は流音なんかよりずっと強力なライバルなんじゃないのか……?)
 光原家をよく知らない人間は「美人三姉妹」「才媛揃い」などと賞賛するが、ちょっとでも内情に詳しければ三人が三人とも「見かけはいいし才能もあるけど色々残念な娘たち」と評するだろう。
 事実、希望自身も(己の容姿はともかく)概ねそのとおりだと考えていた。つい最近までは。
(普通に考えれば、姉さんが一番不利のはずなんだ。年の差がでかすぎるし、人間としてかなりダメだし。引きこもりだし)
 だが別の見方をしてみると、だからこそ龍之介の気を引ける、とも考えられるのだ。
(あのバカはシスコンに加えて世話好きだからな、姉さんみたいな女は放っておけないだろう。そこまで計算してるとしたら……くっ、我が姉ながら恐ろしい女だ)

(んー。苦悩する希望ちゃんも新鮮で可愛いなー。このまま押し倒しちゃいたいくらいだけど、わたしの腕力だとあっさり逃げられそうだから、もうちょっとデレさせてからかなぁ)
 半分血の繋がっている妹に対して邪な想いを抱きつつ、沙月は「んくんく」とビールを飲む。
(それに、やっぱり龍くんがいないといっぱいオルガできないしー)
 二十六歳にして遂に女になった沙月は、もう性に対してなんの遠慮もなかった。肉欲に素直に従う主義なのだ。
「ねぇ、希望ちゃん」
「ん?」
 そろそろ一本が空になりそうになってるだけあって、さすがに希望の顔は赤い。そもそも、いつもよりペースが速すぎる。
「るーちゃん、どうしよっか?」
「……どうする、とは? 姉の強権発動で強引に龍之介から引き離すのか?」
「我が家で、わたしにそんな権限あるの?」
「…………ないな。まったく。かけらも」
「うぅ、ひどい。お姉ちゃん、傷ついた。あとで龍くんに添い寝してもらって慰めてもらわないと!」
「添い寝だけならまあ見逃してやってもいいが、どーせその無駄に育った乳であのバカを誘惑するつもりなんだろうがっ」
 巨乳の姉と妹に挟まれて育ったせいか、希望は胸の話には過剰に反応する。沙月と流音が龍之介と関係を持ってからは特にその傾向が悪化していた。
「無駄じゃないよお。近い将来、わたしと龍くんの赤ちゃんにおっぱい飲ませるんだし」
「ぶふっ!」
 希望が飲みかけたワインを盛大に噴き出す。
「あ、汚い」
「な、な、なな、なにを言い出すんだ、姉さんは!」
「えー。だってわたしもそんなに若くないしぃ、龍くんの子供産むなら早いほうがいいかなって。……希望ちゃんだって考えてないわけじゃないよね?」
「う。そりゃまあ……うん、私だって女だし、好きな男の子供は欲しいさ。でも、」
「うん、もちろん龍くんが成人してからの話だけど」
 大学卒業を待ってもいいが、そのときの自分の年齢を考えるとさすがの沙月でもいくらかは焦る。
「わ、私は別に、あいつの高校卒業と同時でも構わんのだがな」
 二人とも、敢えてどっちが弟を婿にするか、とは口にしない。言わなくともわかってるからだ。
「まあ、そこらへんはまだ先の話だからひとまず置いておいて……今はるーちゃんだよねえ。……あ、そこのチーズ、お姉ちゃんにも一切れちょうだい」
「ビールにチーズって合うのか?……そうだな。ここんところの流音は、ちょっと目に余る。だが、気持ちはわからんでもない」
「これがねえ、意外といい組み合わせなんだよ。大人の味って感じで。……やっぱりね、お姉ちゃんとしてはね、このままだとまずいかなーとは思うの」
 龍之介が作っておいたつまみのチーズをはむはむ食べながら、話題を戻す。
「そりゃまずいだろう。龍之介は私の婿だ、たとえ妹であろうとも渡す気はない」
「わたしは、別にるーちゃんと龍くんがくっついてもかまわないんだけど」
「……本気か?」
「うん。今後もわたしと一緒に暮らしてくれて、面倒見てくれて、エッチのときは交ぜてくれればあんまりこだわらないよ」
 これはほぼ正直な気持ちだった。
 ほぼ、というのは、龍之介を独り占めしたいという願望がまったくゼロではないからだが、それ以上に「どうせなら龍くんだけじゃなくて希望ちゃんとるーちゃんも囲ってうはうはで甘々でぐちょぐちょのハーレムライフを堪能したい」という、長年の野望のほうが遙かに大きいためだ。
(希望ちゃんは口ではなんだかんだ言ってもだんだん3Pに慣れてきてるし、堕ちるのはもう時間の問題)
 本人は絶対に認めないだろうが、回を重ねるごとに抵抗が薄れてるのは間違いない事実だ。
(希望ちゃんが龍くんとエッチしてるところにしつこく乱入した甲斐があったね、うん)
 よくやったわたし、などと呟きながら「希望ちゃん、よろしくー」と、冷蔵庫から取り出してきた新しい缶ビールを手渡し、プルトップを開けてもらう。
「……なにニヤニヤしてんだ、姉さん」
「べっつにー。んふふー」
 こういうとき、長い前髪はにやけた顔を隠せるから便利である。
「言っておくが、私は姉さんのような歪んだ性癖は持ってないぞ。あくまでも私は龍之介と二人きりで普通の幸せな家庭を築くつもりだ」
「まだそんなこと言ってる。無駄なのに」
 ぽつりと、希望には聞こえないような小声で呟く。
「ただ、今は流音の件が先決だ。あいつはまだガキだからな、暴走しかねん。それを未然に防ぐのも我々姉の役目だろう?」
「……という建前で、龍くんをるーちゃんに独り占めさせないよう頑張らないとね、わたしたち」
「んなっ!? ちが、違うぞ、私はそんな……そんな卑怯なことは考えてないぞ!?」
「そう? じゃあ、るーちゃん、放っておく?」
「いや、それとこれとは別問題だっ。私は姉として、そして教師として、弟と妹を、教え子が道を踏み外さんよう見守ろうというだけでだな、」
「あー、はいはい、わかったよ、希望ちゃん」
 必死に言い訳をする妹をもう少し眺めていたかったが、あまりからかうと本気で怒られそうだったのでここらで切り上げることにする。
「それじゃあさ、しばらくはるーちゃんが暴走しないよう、二人で協力して見張ろうよ。ね?」
「……具体的にはどうするんだ?」
 あっさりと乗ってくるこの妹が、沙月は可愛くてしょうがないのだ。
「るーちゃんの性格からすると、このまま一気に龍くんを落として、そのまま既成事実を作ろうとか考えそうよね」
「き、き、既成事実ぅ!? ダメだダメだダメだ、そんなのまだ早い!」
「違うってば。そういうんじゃなくて、外堀から埋めてくタイプって話。……希望ちゃん、自分が考えてるからって他の人も同じとか思っちゃダメだよぉ?」
「なっ……姉さんにダメとか言われた……っ」
 沙月に正論で諫められたのがよほどショックだったらしく、希望ががっくりと肩を落とした。水泳で鍛えられた広い肩が、今は妙に小さく見える。
「でね、多分だけど、るーちゃんがやりそうなことに心当たりがあるの」
「やりそうなこと?」
「うん。あのね、夏休みが終わったらすぐに文化祭始まるよね?」
「ああ」
 そのせいで、夏休みだというのに生徒会役員の流音と龍之介は週に何度か登校している。今日も打ち合わせだとかで学校に行ったっきり、まだ帰ってこないのだ。
「だからね……」

エピローグの中盤

 流音のクラスの模擬店は、ほぼ光原一族の貸し切り状態となっていた。級友たちも気を遣ったのかただの野次馬根性か(恐らくはこっちだろう)、一時的に他の客の入場をストップしてくれた。
(みんなしてこっち見てる。やっぱり変な家族だと思われてるんだろうなぁ)
 ここにいるのは、龍之介たち四人の姉弟と一人の父、三人の母の計八人である。
(いつもながら……姉さんたちは全員、お母さんそっくりだ)
 沙月の母は腰まで伸びた長い黒髪の和服美女。
 希望の母は長身ですらりとした、パンツスーツがよく似合う美女。
 流音の母は大きなバストと黄金色の髪が眩しい北欧美女。
 要するに、ここにいる女性陣はみな美女・美少女なのだ。
 一方の男性陣は、相手が悪いこともあって地味な印象が拭えない。
「父さん、しばらく戻って来られないって言ってなかった?」
「もうちょっとあっちにいる予定だったんだが……その……色々あって、だな……」
 言葉を濁す父を見て、息子はすべてを察する。
(母さんたちになんか言われたんだ、やっぱり)
 一代で会社を興した父は、名声や資産と引き換えに自分の時間というものを犠牲にしている。一年の大半を海外を含む出張で潰しているのだが、そのことを母たちが快く思ってないのは明白だ。
(おおかた、僕とるー姉の劇をだしに誰かに呼ばれたんだな、きっと)
 恐らく、この後はいつものように母たちによる女の戦いが始まるのだろう。なにしろ、そういったことには疎い龍之介から見ても三人の母たちのメイクや服装に力が入ってるのがわかるのだから。
「父さん、聞きたいことがあるんだけど、いいかな」
 久しぶりに再会した母娘がそれぞれのテーブルで楽しげに語り合うのを横目で見つつ、息子が父親に尋ねる。
「父さんは、どうして母さんたちの誰かと結婚しないの?」
「そりゃまた……えらくストレートな質問だな。なんで今さら」
「え。その……参考になるかな、と思って」
 なんの参考だ、とは聞き返されなかった。聞くまでもなく承知してるからだろう。
「そんなの簡単だ。重婚制度がないからだ。あんな可愛い母さんたちの中から誰か一人なんて選べるわけがないだろう!」
 父は息子の問いに対して、堂々とそう答えた。字面だけだとひどく軽薄でいい加減なセリフなのだが、この父が口にすると恐ろしいほどの説得力があった。
(い、いいんだ……選ばなくてもいいんだ……!)
 このとき、龍之介は憑き物が落ちたような晴れ晴れとした表情を浮かべ、無言のまま義父に手を差し出した。
「……お前もこれがわかるようになったか。もう……大人だな」
「ありがとう、父さん」
 一見感動的な、でも中身は極めてひどい父と息子の握手であった。