ページが足りなかったのと、「別にここの場面なくても関係ないですよね」という担当さんの容赦ない指摘によりあっさり削られたシーンを公開します。

 エロシーンはないのであしからず。
 エロどころから、メインが男キャラですからね、ここ。
 でも、青橋的には好きなシーンです。
 棚ぼたでハーレム状態になっただけの主人公キャラじゃないってところをきっちり書きたいと、いつも思ってます。

 当然のことですが、以下の2冊を読了してないとネタバレになっちゃいますのでご注意を。
 未読の方は是非この機会に2冊ともゲットしてください……と華麗に宣伝。

W新婚お嬢様!W新婚お嬢様!
青橋由高(著)・天河慊人(イラスト)

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お嬢様フォーシーズンズ
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 では、ネタバレ(ってほどでもないですが)してもOK、エロがなくてもかまわないという物好きな方は以下にお進みください。
ボツシーンその1:第3章 序盤

(俺、やっぱ美琴に嫌われてんのかなぁ……)

 クラス委員の仕事を終えた幸也が、すっかり人気の少なくなった校舎をとぼとぼ歩いている。置きっぱなしにしていたカバンを取りに一度教室に戻っているところだった。

(涼音は「そんなことないです」って言ってくれてるけど、美琴のヤツ、エッチしてるときの顔、いまだに見せてくれねえし)

 表面上は「美琴だって俺のこと好きなんだろ?」などと軽口を叩く幸也だが、プロポーズを受諾してもらったあのときからずっと、もやもやとした不安に悩まされていた。

(身体は許しても心は俺に渡さない、って意味なのかな、あれ)

 被害妄想が加速しすぎて、なんだかよくわからない疑念まで湧いてきている。

(こんなこと誰にも……涼音にも相談できないし……お?)

 自分たちのクラスから明かりが漏れている。消灯のし忘れかと思いつつ教室に入ると、見覚えのある女生徒が残っていた。

「あれ、相原? どうしたんだ、こんな遅くに」

「そういう清水くんこそ。私は部活の帰り。忘れ物したから取りに来たの」

「俺はクラス委員の仕事。……ああ、お前、馬術部だったっけか」

 相原雫とは去年も同じクラスだったが、ほとんど話したことはなかった。

(しっかし……何度見ても綺麗だな、こいつも)

 この学園にはハーフが多いが、目立つという意味では雫はそのなかでも白眉の一人だ。輝くような銀髪と整った顔立ちは、新婚の幸也でさえつい目を奪われてしまう。

(さすが伊静の二大美女の一人ってところか)

 来年は俺の嫁がその座に座るけどな、などと変な対抗意識を抱きつつ自分の机からカバンを持って教室を出る。電気を消して昇降口に向かうと、先に教室を出た雫の姿があった。雫を待っていたのだろう、一人の下級生らしき男子生徒も見える。

(あれが噂の四つ股くんか。……見た目はフツーだけどな)

 二人は仲良く手を繋いで校門へと歩いていく。

(へぇ。相原もあんな顔するのか)

 無口で無愛想で有名な雫だが、今は優しい笑顔を隣の少年に向けている。

(……美琴もああいうふうに笑ってくれないかな……)

 つい自分の状況と重ねてしまう。

(結婚する前は、もうちょっとあいつとの距離、近かった気がするんだけど)

 前を歩く二人を邪魔したくなかったので、幸也はわざとゆっくり歩く。
 校内新聞の情報や友人から聞いた噂話を信じるならば、あの少年は四人(!)の恋人と同時に交際しているらしい。四人はそれぞれ二組の姉妹で、雫も水桜という二年生の妹と一緒に少年と付き合ってるという。

(俺なんて二人でひいひい言ってるんだけどな……)

 羨ましくはないが、凄いとは思う。あの後輩と自分が同じ立場にないことはわかっているが、幸也は少しだけ、あの少年と話してみたくなった。


ボツシーンその2:第4章 冒頭

 クリスマスムード一色の街を歩き回り続けた幸也は、疲れた顔でベンチに座っていた。予定ではとっくに買い物を終えて愛妻たちの待つ自宅に帰っている時刻だが、幸也はいまだ手ぶらのままだ。

(クリスマスプレゼントったって、なに買えばいいんだよ……)

 結婚して初めてのクリスマス。
 涼音も美琴も「今までどおりでいい」と言ってくれているが、夫として、男として、やはり多少は見栄を張りたいのが偽らざる本心だった。

(だけどなぁ、あいつら、なにを贈れば歓ぶかなぁ)

 プレゼント交換は毎年行っているが、悩むという点だけは変わらない。
 ただ、実はずっと考えてるものがあるにはあった。

(やっぱり、指輪……だよな)

 結婚式で使った指輪は借り物だったので、早く買わなければ、とずっと思っていたのだ。が、悲しいかな、学生の身分ではなにぶんにも懐具合が寂しく、あの二人に釣り合う指輪を購入することができない。

(さっきのアレ、二人に似合ってるとは思うんだけど……値段……微妙すぎ)

 何軒かのショップを回って、実は一目で気に入った指輪があった。
 高価すぎるわけではなく、むしろ幸也の予算でも充分に購入できる額だったが、それが逆に二の足を踏ませていた。
 高すぎても買えないし、安すぎても二人に失礼ではないかという葛藤に、幸也は頭を抱えたくなった。

(あーっ! 早く大人になりてぇよ……ちゃんと自分で稼いだ金であいつらを幸せにしてやりてぇ……!)

 気づけば空はすっかり暗くなり、強くなってきた北風が心まで冷やすような錯覚に陥る。暗さと寒さがますます幸也の思考を負の方向へと導く。

「どうすっかな……お?」

 このまま座っていても埒が明かない。そう思ってベンチから立ち上がった幸也の視界に、見覚えのある人物が入って来た。
 考えるより先に足が動き、その人物━━━噂の四つ股二年生に駆け寄っていた。


 神戸大地という名の後輩は、幸也が想像していたよりもずっと物静かな少年だった。

(こいつが相原たち四人の女生徒を……?)

 二組の姉妹、計四人の少女と同時に付き合っているという噂だが、とてもそうは見えなかった。
 ただ、ここのところずっと学年トップの成績を修めてるというだけあって、話し方は聡明さを感じさせたし、頭の回転も速そうだと幸也には見えた。

「そうですか、雫さんと同じクラスなんですね」

「同じクラスったって、ほとんど話したことはないけどな。俺に限った話じゃないけどさ」

「雫さん、本当は話し好きなんですよ」

 大地はさらりと、聞きようによってはのろけのようなセリフを口にする。けれど、その口調に自慢げな響きはない。素直に事実を述べただけなのだろう。

「へー。相原がねえ。……あまり想像できないが」

 しかし、この少年の前ではそうなのだろう。大地と二人一緒のところを目撃したことがある幸也には、それが素直に信じられた。それくらい、そのときの相原雫はいい笑顔を見せていたのだから。

「ところで、僕になにか用事があったんじゃないですか?」

「あ、うん……用事ってほどじゃないけど……その、聞きたいことがあったんだ。ある意味、俺の大先輩みたいなもんだしな、お前」

「大先輩?……ああ、もしかして、二人の女性と結婚されたという三年生って、」

「あ、それ俺のこと」

 目の前の少年ほどではないが、幸也のW結婚も学内ではかなりの話題を集めたので、知っていても不思議はない。しかも、

「雫さんから聞いてますよ。その……ああいう夫婦に憧れる、なんて言ってました」

「……ウチはかなり特殊だと思うけどな」

「それ言ったら、僕たちだって」

「そりゃそーか」

 男二人は顔を合わせて笑う。
 共に複数の女性を愛してしまい、そして愛されてしまった者同士、なんとはなしに波長が合うようだった。ある意味、共犯者同士という意識も働いている。

「今日は一人なのか?」

「はい。明日は忙しくなっちゃうので、今日中にプレゼント探さないといけないんですよ。本当ならもっと早く用意するべきなんですけど」

「なんだ、俺と同じだな」

 また同時に笑う。
 初めて会ったとは思えないほど、幸也はこの大地という後輩に親近感を抱いていた。

「なに買うつもりなんだ? 四人全員にだろ、予算も大変じゃないか?」

 この後輩の恋人は、全員資産家の娘だと聞いている。その彼女たちに見合うプレゼントを四つも用意するのなら、相当な額になるはず……という幸也の予想は、しかし、見事に外れた。

「いえ、そんなでもないですよ。僕、奨学生ですし、お金もありませんから」

 そう言って大地が持っていた紙袋から取り出したのは、

「雫さんには乗馬用のグルーミングブラシ、玲欧奈さんには金髪用のハーブ入りシャンプー、水桜さんには帯留め、美空さんにはオカルト関連の稀覯本、ですね」

 決して安価ではないが、それほど高価にも見えない品々だった。
 そのことを幸也が指摘すると、大地は恥ずかしそうに頷く。

「はい、僕、貧乏ですので、これが精一杯なんです。でも、お金をかけない分、時間をかけました」

「時間?」

 ブラシとシャンプーはネットで調べて専門店に取り寄せてもらった外国製で、帯留めは桜を意匠した特注品。書籍は古書店に根気強く通い続けてようやく入手したものだという。

「でも、一番大切なのは、その人のことを想ってますってメッセージだと想います」

「メッセージ……」

「お金をかけられないから、時間をかけて大好きな人たちがもらって一番嬉しいものを考え続けました。本当に喜んでくれるかは、明日にならないとわかりませんけどね」

 大地は少し心配そうだったが、幸也はそれは杞憂だろうと思った。
 このプレゼントを見るだけで、彼が彼女たちを大切に想っていること、そしてきちんと理解していることがわかる。

「大丈夫だ。根拠はないけど大丈夫だ。安心しろ、後輩」

「ありがとうございます。そう言ってもらえると心強いです、先輩」

 また今度ゆっくり話そうと約束して、幸也は大地と別れた。彼はこの後、四人の彼女たちと会って明日の準備をするらしい。

「さて、俺ものんびりしてられないな」

 時計を見ると、もうかなり遅い。早くしないと閉まる店も出てくるだろう。
 だが歩き始めた幸也の顔は先程までとは違い、迷いがなくなっている。一直線に目的の店へと向かう。
 そしてこの日、幸也は無事に妻たちへのプレゼントを手にするのだった。