劇場の神様
原田宗典


神様、おまたせしました。わたくし原田宗典は、ようやく自分自身が読みたかった小説が書けました。神様、あなたに向けて書いたものです。どうぞお読み下さい。

往年のスター演ずる剣劇ショーの大部屋暮らし。座付き役者の一郎は、若手いびりの古参役者の鼻を明かすため、本番中の混乱に乗じてある企みを思いつく。それが、十年に一度あるかないかの名舞台だったので……。極上のユーモアで芝居の歓びを描く表題作ほか、懐かしい町が秘めた官能的回想「ただの一夜」、プールサイドに佇む女生徒の告白「夏を剥がす」など、著者会心の傑作小説集!


 誤解を恐れずに書けば、国語の教科書に載っているような短編・中編です。もちろん、いい意味で、です。
 実際には、扱ってる題材が微妙なので、教科書はどーかな、と思いますが。高校くらいならオッケーかな?

 表題作「劇場の神様」はドキドキしながら読みました。
 ある程度オチは読めてるのですが(実際、そのとおりのラスト)、それでも読者を惹きつける文章と構成。そして、私の予想よりずっと美しい余韻。やっぱり凄いです。

 「ただの一夜」のほのかなエロスとノスタルジックな雰囲気もいいですし、「夫の眼鏡」のラスト数行も見事。

 でも、一番印象に残ったのは、「夏を剥がす」です。
 正直に言うと、お世辞にも明るくないし、救いもほとんどない話なのですが、それを過去というオブラートで包んでるため、実に「なんとも形容しがたい」後味を残すのです。作中の言葉を引用するならば、「胸騒ぎに似た奇妙な後味」でしょうか。

 残酷なんだけど、でも、どこか懐かしさを感じさせるという、ある意味、作者の思う壺。
 ここらへんが一流作家の切れ味なんだろうと痛感しました。