オンライン書店ビーケーワン:あねらぶ-彼女は三姉妹!あねらぶ〜彼女は三姉妹!

大変長らくお待たせしました、「あねらぶ」の書き下ろしおまけストーリーです。季節は真冬なのに、作中は真夏ですよ、奥さん!

なお、今回はエロシーンないので、過度な期待はしないように。
それと、主役は多分、誰もが予想しなかったキャラです。というか、読んだ人でも「そんなヤツ、いたっけ?」となる気がします(^^;

ちなみにこれ、2日間、時間にして5時間くらいで書いたので、完成度とか求めないでくださいね(^^;
あくまでもお遊びですから。
お姉ちゃん祭り2005」というイベントが今月いっぱいだったので、慌てて書き上げた、というのが真相です(笑)。

では、お楽しみいただければ幸いです。
「あねらぶ」番外編〜高木姉弟の場合

///// 1 /////
 真夏の白い太陽が照りつけるグラウンド。ぎっしりと埋まったスタンドからは、両チームの応援団が喉をからして選手たちに声援を送っている。
 夏の高校野球選手権、地区予選の準々決勝。
(あー、さすがにストレートだけじゃきっついなぁ)
 マウンドに立つ一年生エース、高木亮平は荒れ始めた息を整えるため、軸足をプレートから外した。
(伊達にAシードじゃないぜ。こんなに気を遣って投げたのも、ぽかぽか打たれたのも生まれて初めてだな)
 帽子を脱ぎ、汗を拭いながらスコアボードを見る。
 亮平の通う学校はほぼ無名のノーシード校。対する相手は一昨年の甲子園出場校で、今年の優勝候補の筆頭だった。
(ウチの打線とあっちの投手を考えると……もう点はやれない)
 今は八回の裏。得点は三対一で負けているが、うち二失点は味方のエラーでのものだ。
 亮平の武器は長身から繰り出す最速百四十キロのストレート。今まではこれとあまりいいとは言えないカーヴだけで抑えられたが、このクラスとなるとそううまくはいかない。相手もかなり研究してきたようだし、ここまでずっと一人で投げてきた疲労も確かにある。なにより、チームとしての地力が違いすぎる。
(くっそー、耕太のヤツ、今日もお姉様たちと一緒かよ!)
 応援席を見ると、親友の戸部耕太の姿があった。その両隣には、その姉たちが揃っている。亮平も何度か会ったことがあるが、やはりあの三姉妹は美しい。あんな美しい姉たちに囲まれて毎日を過ごしている耕太が羨ましくてたまらない。
(さて、と。お姉様たちの美しいお姿を見たら少しだけ力が回復したぜ)
 再びプレートを踏み、セットポジションに入る。ランナーは満塁。ここで一打出たら、もうかなりの確率で負けることになる。すでに握力はなくなっているが、それでも抑えるのがエースであり、投手という人種だ。
 脚を上げ、この試合で負けると二度と組むことがなくなる三年生の捕手に向けて全力投球をする。
(勝たなくちゃ。俺はまだ……先輩たちと一緒に野球がしたいんだ……!)
「ふっ!」
 気合いと共に投げ込んだ白球は、しかし、キャッチャーミットに収まることはなかった。

///// 2 /////

「惜しかったな、高木」
「よくやったぜ、実際。お前のおかげで、最後の夏、いい思いができた」
「お前にはあと二回チャンスがある。甲子園、行けよな!」
 試合後、高校野球最後の試合を終えた三年生たちが笑顔で亮平を慰めてくれた。その言葉が嘘でないことは、彼らの顔に浮かんだ晴れやかな笑みを見ればわかる。
 創立以来、最高は三回戦進出という弱小野球部をほぼ一人の力でここまで連れてきた一年生を責める部員などどこにもいはしない。ただ一人、亮平本人を除いては。
「……すんませんした」
 亮平は掠れた声で謝り続けることしかできなかった。どんな顔で先輩たちを見ればいいのかわからない。
「そんじゃ、今日はお疲れ! 今夜はしっかり休んでおけよ! 明日、キャプテンの引き継ぎやら打ち上げやるからな! 以上、解散!」
 これまでの全試合、亮平の球を受け続けた主将の言葉に、部員たちが次々とロッカーロームから出て行く。
「……ほら高木。なんて顔してんだ。三年生の俺らが満足してるんだから、一年生のお前が泣くことないんだぞ、バカ。胸張って帰るんだ。いいな?」
「…………」
「返事っ!」
「……うす」
 まるで追い立てられるようにして、古びた部室から出る。もう二度と、三年生たちと一緒にこの部室で着替えることもないのだと思うと、また悔しさが込み上げてくる。
「すんませんした……」
 何度目かわからないセリフを口にして、亮平は疲労で重くなった脚を校門へと向けた。

///// 3 /////

 自宅に帰った亮平を待っていたのは、まるでクリスマスパーティーでもやるのかと思うほどの豪勢な夕食だった。両親と女子大生の姉が先に席について亮平を待っていた。
「な、なんだよ、これ。俺、今日、負けたんだぜ?」
「バカね、お前みたいなのがあんな強豪高校に勝てるなんて思っちゃいないよ。これは、ここまで頑張ってきた不出来な息子へのご褒美だよ」
 母親が笑いながら大盛りのご飯を寄こしてくる。
「会社を休めなくて見られなかったのは残念だが、よくやったな、亮平」
 かつては自分も大学で野球をやっていたという父親が嬉しそうにビールのグラスを傾ける。早くも顔が赤くなっている。亮平が帰る前から飲んでたのだろう。
「なんだよ、息子が負けたってのに。ちっ、いいさ、来年はちゃんと甲子園に行ってやるからな! 今日はたまたまさ」
 亮平は箸をあちこちに伸ばし、次々とご馳走を口のなかに放り込んでいく。
「本当は今年から甲子園に行って、桑田の高校通算勝ち星を抜いてやるつもりだったけどな、それは諦めてやるよ。どうせ俺はプロに入って、名球会に入る天才だからな!」
「おーおー、強気だねえ、我が息子ながら」
 亮平のビッグマウスは今に始まったことではないので、両親はいつものように笑って聞き流している。
「……姉貴?」
 いつもなら「アンタね、少しは現実を見なさいよ。ちょっと才能あるからって自惚れるの、やめなさい」などと小言を言ってくる姉の響子が今日はなにも言ってこない。普段は口うるさい姉の様子に、亮平が怪訝な表情を浮かべる。
「……なんでもない。ごちそうさま」
 まるで亮平の視線から逃げるように、響子は自室に戻ってしまった。
「なんだ、ありゃ?」
 普段と違う姉の様子に首を傾げる亮平だったが、その理由に心当たりはなかった。
 気丈に明るく振る舞う弟が痛々しくて見ていられなかったなどとは、夢にも思わない亮平であった。

///// 4 /////

(眠れねー……)
 深夜一時。亮平はベッドの上で煩悶していた。
 目を瞑ると今日の試合のシーンが次々と甦ってくる。体はくたくたで睡眠を欲しているのに、うとうとした瞬間、バッターに痛打される映像が生々しく脳裏に浮かぶのだ。
「うぁ……ああああっ!?」
 浅い眠りについては、自分の呻き声で何度も目覚めるということを繰り返す。
(くそ……どうして俺、あそこでもっと踏ん張れなかったんだ……)
 八回でノックアウトされた亮平のあとを投げたのは、昨年まではエースナンバーを背負っていた三年生だった。一度火がついた強豪校の打者は容赦なく元エースを打ち込んだ。
(俺のせいで……俺のせいで、先輩の最後のマウンドをあんなひどいものにしちまった……!)
 同じマウンドを譲るにしても、せめてもっと違う場面でバトンを渡したかった。三年間の最後を、あんな結果で終わらせてしまったことが亮平を苦しめる。もちろん他の三年生に対しても同じ気持ちだ。
(決して抑えられない相手じゃあなかった。なんで俺は……俺は……っ!)
 自分の球が次々と打ち返される情景と、笑顔でそんな自分を慰めてくれた先輩たちの姿が交互に瞼の裏に浮かんでは消えていく。
 もちろん、こんな精神状態で眠れるわけがない。
(ったく……こんな弱い心だから打たれるんだ……っ)
 寝るのを諦め、渇いた喉を潤すためにキッチンに向かう。朝の早い両親はとっくに寝ているはずなので、音を立てぬよう、そっとペットボトルのミネラルウォーターを取って部屋に戻る。
「姉貴?」
「亮平……」
 補助照明だけの薄暗い部屋にいたのは、だぼだぼのTシャツをまとっただけの響子だった。普段はまとめているロングの黒髪が背中に流れている。剥き出しの太腿が薄暗い部屋で妙に目を惹く。
「どうして俺の部屋に?」
 姉の太腿から目を逸らし、
「亮平、眠れないの? さっき、ドアが開く音がしたから、気になって」
 質問に対して質問を返してくる響子。
「……ただ喉が渇いただけだよ。眠くないわけないだろ? 俺、一応ほぼ全試合投げたんだぜ? そりゃ俺みたいな天才には大したことじゃないけどさ、一応は疲れてるんだし」
 亮平はいつものように軽口を叩く。家族や友人に、今の自分を知られたくなかった。幸い、この明るさなら赤くなった目や血の気の引いた顔を知られることはない。掠れた声だけは隠しようがなかったが、なんとかいつもの「自信に溢れ、明るい自分」を演出する。弱い自分は、誰にも見せたくなかった。それがたとえ血を分けた肉親であったとしても。
「だいたいなんだよ、その格好は。いくら夏で弟相手だからってさ、もうちょっとは考えろよな。まあ、たとえ素っ裸でも、俺が姉貴に欲情するわけねえけど」
 いつもならここで必殺の蹴りか正拳突きが来るところなので身構えるが、
「……姉貴?」
 響子はただ悲しそうな顔をしただけで、襲いかかってくる気配はない。
「そうだよね。アンタは戸部くんのお姉さんみたいな美人が好みなんだもんね。今日だってそうだったもの」
「なんでそれを……」
 確かに試合中、亮平は親友の、美人と名高い姉たちを見た。ただそれは緊張を和らげるために意識的にした行為で、本気で彼女たちに目を奪われていたわけではない。
「まさか姉貴も試合を観てたのか!?」
 今日は両親は仕事で、響子も学校があるから応援に行けないと言っていたはずだ。
「なによ。姉が弟の応援に行ったらいけないの?」
 響子が寂しそうに目を伏せる。
「ち、違う。そうじゃなくって……」
 見られてしまった。あんなみっともない姿を。あんな情けない自分の姿を。
 そして亮平は悟ってしまった。目の前にいる姉に、今の自分の精神状態を知られてしまったことを。弱く脆い、本当の自分の姿を。
「亮平」
 優しい笑みを浮かべた響子がゆっくりと近寄ってくる。姉との距離に比例するかのように目に涙が浮かんでくる。
「お、俺は……俺は……っ」
 駄目だ。繕わなければいけない。自分は天才なのだから。自分は陽気で自信家で、そして姉を姉とも思わない生意気な弟なのだから。
「俺は……んぐっ!」
 逃げなくては。
 そう思ったときにはもう、亮平の顔はなにか柔らかいものに埋まっていた。自分が今、姉の胸の谷間に顔をめり込ませているのだと気づいた瞬間、耳がカッと熱くなる。
「そりゃあ私はあのお姉さんたちみたいに美人でも可愛くもないけど……それでも、アンタのお姉ちゃんなんだ。バカだけど可愛い弟の応援に行っちゃいけないの?」
「…………」
 返事をしようにも、口が塞がれているのでなにも答えられない。
「なのに亮平ったら、全然私に気づかないんだもん。……私、結構傷ついたんだから」
(え……姉貴が……? なんで?)
 普段は自分のことをバカだのアホだの言っている姉の優しい言葉に、頭のなかが混乱する。なによりこの、柔らかくて温かくていい匂いのする胸の感触に、思考能力が溶かされていく。
「無理しなくてもいい。お前は精一杯やったんだから。だから……今だけは泣いてもいいんだ。お父さんもお母さんも知らない……ううん、世界中の誰も知らないお前を、私だけは知ってるんだから。……頑張ったな、亮平。お前は頑張った。……よくやったぞ」
 ぽんぽん。
 優しく背中を叩かれたのが合図だったかのように、亮平は声を立てずに泣いた。今の今まで我慢できたのが嘘のように泣いた。涙が止まらなかった。
 悔しくて悲しくて辛くて情けなくて、
 そして、
 姉の温もりが嬉しくて。

///// 5 /////

「……ごめん、姉貴。シャツ、汚しちまった」
 どれくらい泣いただろうか。
 亮平は決まり悪そうに姉の胸から顔を上げた。
「いいよ、別に。これも泣き虫な弟を持った姉の義務だから」
「だ、誰が」
 泣き虫だ、と言いかけて、やめた。確かに今日の自分は泣き虫と言われても仕方のないことをしたのだから。
「なんで……だよ」
「なにが?」
「なんで急にこんな……」
 優しい声で、優しい顔で、優しく頭を撫でてくれたのか。
 確かに自分たちは仲の悪い姉弟ではなかった。だが、戸部家のようなべたべたな関係でもない。むしろ常に悪口を言い合うような姉弟関係のはずだ。
「アンタがいけないんだ」
「? 俺がなんで悪いんだよ?」
「亮平、私のことに気づかなかった」
「は?」
「戸部くんちのお姉さんたちには気づいたのに、もっと前の席で応援してた私には気づいてくれなかった。ずっと声出してアンタのこと応援してたのにっ」
 家系なのか、長身の亮平よりは低いが、響子も女子としてはかなり背が高い。美人だがキツめの瞳と相まって、睨むとかなり迫力がある。
「どうせ私は美人でも可愛くもないわよっ!」
 ぷいっ、と顔を背け、亮平の胸を突き飛ばす。そのまま部屋を出て行こうとする響子の顔がちらりと見えた。その拗ねた顔がなぜか……なぜかとても可愛く思えてしまい、
「待てよ、姉貴!」
 亮平は反射的に姉の腕を掴んで引き止めていた。
「きゃっ!」
 急に掴まれた反動で、響子の身体が亮平にぶつかる。ちょうど亮平が響子を正面から抱きかかえるような格好になってしまう。
「な、なによ、バカ! は、放しなさいよ!」
「放せるわけねえだろ、そんな顔しやがったら!」
「余計なお世話よ! ええ、どうせ可愛くないわよ、だから放してよ、バカっ!」
「可愛いって言ってるんだよ、バカ姉貴!」
 無意識に叫んでから、亮平は自分の言葉に驚いていた。
(へ? なに言ってんだ、俺? 姉貴が……可愛い? この生意気で弟をパシリに使うような、家の中では平気でだらしない格好をするようなこの姉貴が?)
「誰がバカよ! 弟のクセに姉を可愛いだなんて……え?」
 今度は響子が自分のセリフに驚く番だった。
「え? え? 私が……可愛い?」
 驚きの表情を浮かべた顔が、今度は見る見るうちに真っ赤になっていく。
(くわっ! な、なんだよこれ! やっぱし可愛いじゃねえか、くそっ!)
 初めて見る姉の照れた表情に、なぜか胸がどきどきしてくる。
(落ち着け、俺! 相手は姉貴だぞ、血の繋がった姉だぞ!? 乱暴でがさつで人を単なる下僕としか思ってないような、人の皮を被った悪魔だぞ!?)
「りょ、亮平……」
 潤んだ瞳で、なにかを求めるような響子の顔がすぐ側に見える。
(相手は姉貴なんだ……普段はわがままでうるさくてどうしようもないけど……でも本当はちゃんと俺のことを理解してくれる、優しくて可愛い……)
 なにか見えない力に引き寄せられるように、亮平の顔が響子に近づく。
「姉貴……ううん、響子姉ちゃん……」
「亮平……ん……っ」
 気づいたら、唇が重なっていた。
 気づいたら、互いに互いの身体を抱き寄せていた。
 気づいたら……亮平は自分がずっと響子のことを好きだったことに気づいてしまった。
「俺……姉ちゃんのことが好……んむっ!?」
 好きだ、という前に、再び唇が塞がれた。
 さっきよりも長いキスが終わると、響子が言った。
「ダ・メ。告白はお姉ちゃんからするのっ。アンタは弟なんだから、大人しくお姉ちゃんの命令に従うの、いいっ?」
「め、命令?」
「そう、命令よ。弟は姉のいうことをなんでも聞かなくちゃいけないのっ」
 響子の濡れた瞳が真っ直ぐに亮平を見つめる。
「私、アンタが好き。亮平が好き。だから命令よ、もう戸部くんのお姉ちゃんたちなんか見ちゃダメ。私だけを見なさい。お姉ちゃんのことを好きになりなさい。……き、聞いてるの?」
 よほど恥ずかしいのだろう、裏返った声と真っ赤な顔で弟を睨んでくる。
「う、うん……わかったよ、姉ちゃん」
「よし。じゃあ、今夜は添い寝してあげる。お姉ちゃんが一緒なら、もううなされたりしないでしょ?」

///// 6 /////

「耕くん、暑くない? どっか喫茶店でも入って涼まなくてもいい?」
 夏休みのある日、たまたま姉弟全員が休みだったので、戸部家は一家総出で商店街に買い物に来ていた。もう夕方だが、まだまだ気温は三十度を超えている。
「大丈夫だよ、八尋姉さん。僕よりむしろ、夏純お姉ちゃんのほうが辛そうだけど」
 心配そうに振り返ると、インドア派の長姉がふらふらと耕太たちのあとをついてきていた。明らかにこの暑さに負けている。
「うう、耕ちゃん……お姉ちゃん、もうダメ。おうちまで抱っこしてくれる?」
 まるで子供のようにその場にうずくまり、弟に抱っこを迫る二十四歳の長女。これでも一家の大黒柱である。
「しょうがないなぁ」
 苦笑しながら背中を貸そうとする耕太に、夏純が嬉しそうに近寄る。が、
「こら! 甘ったれるな、この運動不足エロ作家! 耕太に抱っこしてもらえるのはこのあたしだけなんだから!」
 タンクトップにショートパンツという格好の次女・芹華に邪魔されてしまう。
「きゃん! もうっ、芹ちゃん、乱暴だよー」
「姉さんたち、置いていきますよ?」
 道の真ん中で騒ぐ姉たちを置いて、三女の八尋が歩き出す。
「あ、こら八尋、なに勝手に耕太と腕組んでんだ!」
「八尋ちゃん、抜け駆けだよー!」
 などといつものように騒がしく商店街から自宅へと帰っていると、
「あれ、高木くんだ」
 向こうから見覚えのある人物が歩いてきた。長身なので遠くからでもすぐわかるシルエットだ。
「お、耕太か。よお、元気だったか?」
「うん。試合、惜しかったね」
「まあな。応援してくれたのに悪かったな。でも、来年頑張るさ。……じゃあ俺、ちょっと急ぐから」
「どこか行くの?」
「フフフ……これから俺は……で・え・とっ! なのさ! じゃな、チャオ!」
 これ以上ないくらいニヤけた顔で、高木亮平が商店街へと小走りに去っていく。
「デート? ……え? た、高木くん……?」
 恋人ができたことよりも、あんなに耕太の姉たちに夢中だった高木が夏純や芹華、八尋に目もくれなかったことが驚きだった。
(そっか、恋人ができたんだ。よかったね、高木くん)
 そう素直に祝福する耕太が、友人の恋人がその実姉であることを知るのはもう少し先のこととなる。